活動会員のレポート

498日間のミャンマー駐在を終えて

  三栗 みつくり さとし (元 伊藤忠商事)


高村元外務大臣に同行し、テインセイン大統領と面談

ティンジャン(水祭り)の水を浴びて歓喜する
ミャンマーの若者たち

ミャンマーのランドマークである
シェエダゴォンパゴダ

 私はABICの紹介で2008年1月15日に外務省に入省し、同年4月から2010年1月まで在カンボジア日本国大使館で一等書記官として勤務していた。
 大使館在籍中にお会いしたフォーバル社の大久保秀夫会長からの要請を受け、2011年7月からミャンマーのヤンゴン市に駐在し、2012年11月帰国した。およそ50年の鎖国から目を覚まし、テインセイン大統領の新政権が進める民主化で変貌するミャンマーの駐在498日間を振り返ってみたい。

ヤンゴンの第一歩
 2011年7月10日(日)の夜7時ごろ、バンコク発タイ航空TG305便にてヤンゴン国際空港に到着。予想外にきれいな空港にちょっと安心感を覚える。空港から市街地に走る幹線道路にバイク、自転車、シクロを見ない。乗用車、タクシー、バスが結構なスピードで走っており、ほとんどが1990年代の日本の中古車である。車窓から見る人々の表情は穏やかで落ち着いて見えた。アジアの他の都市とは違う風景である。これがミャンマーに対する最初の印象であった。

事務所の設営
 日本企業のミャンマー進出を支援する体制づくりが小生のミッションである。まずは事務所設立の仕事に取り掛かった。事務所の活動許可と登録申請を国家計画経済開発省に提出し、承認を得るまでに6ヵ月を要した。事務所探しも簡単ではなかった。急増する需要に供給が追い付いていないので、事務所賃貸料は売り手市場で高騰し、東京並みの水準である。住居賃貸料もホテル室料も滞在1年半で約3倍に跳ね上がった。完全なバブル状態である。
 インターネット環境は劣悪であった。スピードは遅く、重いデータは送れない。問題はスピードだけではない。頻繁に起こる停電にも悩まされた。
 ミャンマーの銀行業務の鈍さには驚かされた。現金の引き出しには2時間を要する。銀行内の業務は全てが手書き作業である。一方、金融改革は急ピッチで進められており、昨今、民間銀行では外国企業の口座開設も容易にできるようになり、海外からのドル送金も可能となった。2012年4月より、多重為替レートが廃止され、実勢レートに一本化されたことは大きな変革であった。

テインセイン大統領
 2011年3月に発足した新政権への国際社会からの評価は日増しに高まっていった。テインセイン大統領の民主化、政治・経済改革、国民和解を基本に置いた政策は一貫しており、国民が実感できる改革の達成を強調していたのが印象的である。経済改革のためには外国からの支援は不可欠として、外資誘致を積極的に進めるための、法整備、金融改革を推進している。政治犯を含む囚人の解放、アウンサンスーチー氏との協調路線、カチン州で中国が進める水力ダム建設の中止宣言、少数民族間との停戦合意などを矢継ぎ早に実行し、その結果、欧米の経済制裁緩和を引き出した政治手腕は評価される。

ミャンマーの水祭り
 ミャンマーの水祭りを知らずしてミャンマーは語れない。ミャンマーの4月のカレンダーはお休みの赤マルが10個並び、4月は仕事にならない。水祭りはミャンマー暦に従った新年に先立って行う伝統的祭りで、昔のミャンマーの伝統により、人は1年の汚れを水祭り(ミャンマー語でティンジャン)の水で洗い流すと自分の心がきれいになると信じている。精神的にも肉体的にも純粋な気持ち で新年を迎えられると信じており、水を求めて集まる小型トラック(荷台に人が群がる)で道路はあふれかえる。

信心深いミャンマー人
 世界で一番大きく美しい仏塔といわれるシェエダゴォンパゴダを訪れると、この国の人たちの仏教への信仰心の深さに感心させられる。床に座り静かに瞑想にふける老人、頭を床に付けて願い事をする若い女性たちの多くを見ることができる。仏の教えが今も多くの若い人たちに引き継がれている。

ミャンマーの魅力
 潜在的な可能性の大きいことがミャンマーの魅力だ。6,200万の人口と親日的なことが新たな生産拠点や市場としての可能性を秘め、日本にとっては大きなビジネスチャンスだ。ミャンマー人は勤勉で、労働者の士気は高い。賃金は2012年1月時点でタイの4分の1であり、ベトナム、カンボジアよりも安い。観光の魅力も大きい。自然の美や他に類を見ない遺跡の数々が存在する。荘厳な寺院や悠久の景観を誇る、神秘的で魅惑的な国である。どこを訪れても、人々が温かく迎えてくれる。心に安らぎを与えてくれるミャンマーの魅力は無限である。

おわりに
 ミャンマー歴史の1ページともなる新生ミャンマー誕生の時代に遭遇できたことは幸運であったと言わざるを得ない。その機会を得るきっかけをいただいたABICに心より感謝申し上げたい。今後はこの貴重な経験を生かして、ミャンマーへの日本企業進出の支援活動に関われれば幸いと考えている。