活動会員のレポート

虹の架け橋教室の終了に当たり

  もり 和重 かずしげ (中南米担当コーディネーター、元 三井物産)


成果発表会

1.「虹の架け橋教室」委託事業の経緯
 2008年のリーマン・ショックによる世界的な経済不況の影響で、日系ブラジル人等定住外国人の子どもたちの就学環境が不安定になった。2009年初め、政府の緊急支援対策の1つとして、文部科学省により「定住外国人の子どもの就学支援事業」(虹の架け橋事業)が決定された。「国際移住機関(IOM)」が委託を受け、日本語教育を主とする「虹の架け橋教室」委託事業として2009年9月に第1回の公募が行われ、ABICは受託することができた。茨城県つくば市と常総市のブラジル人学校の教室を借りて2教室を開講し、引き続き2011年まで3年間受託し計3年活動を行った。しかし、就学状況が十分改善されていないこともあり、さらに本事業の3年間継続が決まり、2014年度まで受託した。(2014年度は茨城県に1教室として認可)
 2015年1月の終講まで、合計6年間の本委託事業を行うことができたが、この「虹の架け橋教室」の委託事業を顧みると、在籍者数は総計382人で、不就学・不登校の子どもたちが日本語・教科を学び、主として日本の公立学校に、そしてブラジル人学校に送り出すことができた。同時に、この事業を通じて地域の日本語教師やブラジル人サポーターの養成、ブラジル人コミュニティーと地域学校や地域社会との交流のきっかけをつくるなど、この事業の目的を十分果たすことができたと考える。

2.「虹の架け橋教室」今後の活動と課題
 虹教室の継続の必要性
 在日ブラジル人の教育問題は依然解決されておらず、むしろ深刻化・複雑化している。日本へのデカセギの始まった1990年代の初期に来日した子どもたちは、日本の公立学校の受け入れ体制ができておらず、またブラジル人学校も設立されていない時代でもあったので、不就学・不登校になる子どもが多かった。十分な学校教育が受けられず、いわゆるダブルリミテッド(ポルトガル語も日本語も十分話せない)の子どもが親になる年代にあるため、一番重要な幼児教育(1-3歳)が十分になされないという「負の連鎖」が始まっている。また、保育所や幼稚園に通園する機会もないまま小学校に入学するケースが増えている。入学当初から日本の子どもとの格差が大きくこの溝が埋まらないため、不就学・不登校になる子どもも出てきている。
 一方、小学校・中学校を卒業しても日本語・学習言語の習得が不十分なため、高校(大学)進学への道は狭く(できてもドロップ・アウトが多い)、また就職も難しいため、中学・高校浪人が増えている。従って、入学前(プレスクール)と中学卒業後(過年齢)の子どもを対象とする日本語・学科教育の新しいシステム作りが求められている。
 文部科学省もこの事態を認識し、2015年から別方式による「定住外国人の子供の就学促進事業」(虹教室)として継続を決めたが、政府助成が3分の1で、3分の2は都道府県負担となるため、県・市町村の財政が厳しい地域では、継続が難しい。ABICは、2015年度継続のため茨城県と交渉し、県レベルでの支援体制を決めてもらったが、予算措置の見通しがついていない状況にある。従って、現状はボランティア方式により細々ながら虹教室を維持している厳しい状況にある。
地域社会との支援・協力強化による職業教育(職育)の重要性
 進学できない子どもはやむを得ず、アルバイトとか親と同様なデカセギ労働の仕事に就いているが、派遣会社経由の非正規雇用であり、将来の夢を描けない状況にある。従って、少しでも生業に就けるような職育が必要であり、すでに筑波大や地域ボランティアなどと協働して小規模ながら実施している。今後、さらに地域社会を巻き込んだ活動が必要になると考える。
 最近、ブラジル人に代わる形で、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどからの外国人の受け入れが続いており、ブラジル人と同様な問題が発生している。日本としては官・民一体となって受け入れ政策を考える時期に来ていると思う。