活動会員のレポート

リスキリングする人たちと共に研鑽する

  久米川 くめかわ 武士 たけし (元 伊藤忠商事)

 2年半前に長年勤めた会社を完全に退職し、その後すぐにABICを紹介され、登録した。会社人生の半分以上の年月を海外駐在勤務、また、国内本社勤務においても年2-3ヵ月相当は海外出張。その間の生涯フライト距離は、航空会社の記録によれば地球120周とか。この経験を、グローバルな社会貢献活動を旨とするABICの一員として、国内の海外進出希望企業、あるいは輸出入貿易を目指す企業への支援、逆に海外企業の国内市場進出支援、さらには外国人人材登用・労働者確保などに生かせるのではないか、という思いがあった。
 そんな矢先、京都の大学で大学院生を対象にした「国際ビジネス研究」をテーマとする講座の依頼を頂いた。人に物や事を教育する、あるいは指導するような人材ではないと思いつつも、今世界がさまざまな問題に直面している環境にある中で、自らの知識・経験を生かし、学生たちに「ビジネスのあるべき姿や課題」を考えてもらうために有用な情報を提供し、彼らと一緒になって議論することができるのではと考え、お受けすることにした。
 その講座は2023年も継続しているが、新たに園田学園女子大学のシニア専修コースというシニア向け講座の依頼を頂いた。この大学は、「社会連携部・生涯センター」という組織を通じて、昨今、頻度高く提唱されているリスキリング、リカレントといった「学び直し」の重要性を早くから先取りし、長年シニア向けに学習の場を提供してきている。少子高齢化、生産年齢人口減少が際立つ日本社会において、ますます高まる「学び直し」の流れ。学ぶ姿勢を持とう、あるいは働く場に戻ろう、という意欲のあるシニアの人たちと共に、現状認識を踏まえて将来のあり得る姿を想定し、それに備えて今からなすべきことや、次のジェネレーションに託すべきことを議論し、具体的な提言事項などを語り合える場を持てることは素晴らしい機会であるとの認識で取り組むことになった。テーマは、まさに「国際社会の諸問題」である。このテーマを米国、中国、中東、欧州の4地域に分け、私は駐在地で地域全体を見てきた経験から欧州を受け持った。
 長い歴史的背景から強い倫理観で育まれた欧州社会からはさまざまな領域で学ぶべきことが多くある。現在の最大の問題、それは「ロシアのウクライナ侵攻」である。これを避けては通れない。この問題は欧州域内に限定されず、世界に政治・軍事、経済、社会、人権などさまざまな影響を与えている、いまだ進行形の耐え難い現実である。講座ではこの生々しい時事問題を欧州の生い立ち、為政者の歴史観、民族・言語などの文化、東西欧州の繰り返し起こるあつれきから生まれた複雑でデリケートな国家の枠組みなど、さまざまな視点で分析・研究を行った。さらには、グローバルサウスの登場を含め、この侵攻が現在世界の社会体制の構図に大きな変化を与えようとしていることも議論の一部になった。そんな中で欧州は変わらざるを得ない。であれば、どのように、また、どこに向かうのか。そんな緊迫、緊張した講義、議論の連続でもあった。
 現役の学生とはまた違う、自らに近い同世代の、かつ学ぶ姿勢を真摯しんしに持つシニアの人たちとの勉強会。この大学の社会連携・生涯学習に対する強い思いを受けたこの講座が、参加された方々の知識・情報を深め、学ぶ意欲をさらに高めることに寄与できたならうれしい限りである。また、この機会を与えてくれたABICに心より感謝したいと思う。


講義風景