マンスリー・レポート No.16 (2002年2月)
ホンジュラス体験記
    阿部 徹(元 日商岩井)
 一昨年11月22日より本年1月18日まで、約2ヵ月間、JICAの短期専門家として、中米ホンジュラスの田舎町の地域医療事務所に赴任し、主に医薬品の物流業務を行ってきました。

 ホンジュラスは、中南米には珍しく過去にゲリラも共産化も無関係な、貧しいけれど平和な国とのことです。首都テグシガルパでも私のいたオランチョ県フティカルパ市でも人々は親切で、仕事の仲間でも性格の悪い人間はあまり見かけませんでした。人々はともかくお祭り好きで、ちょうど行われた大統領選挙の前後にわたり、夜中まで絶えず皆がマチマチに爆竹を鳴らしたり、トラックに人を満載して街中をパレードなどするので、睡眠不足でまいりました。

 私の仕事は、地域医療事務所の医薬品倉庫から県内に約130ヵ所ある診療所(その多くは医師がおらず、准看護婦だけ)への医薬品の配送が順調にゆかず、診療所で薬が常時不足気味である状態を改善することでした。

 そこで一番配送条件の悪い山奥の診療所を視察調査することになり、Pueblo Viejo(スペイン語で古い村との意味)という村に行きました。往きは車で約2.5時間、そこから馬の揃うのを2時間待ち、それから馬で山道を3.5時間。馬に乗るのが初めてで、しかも細い山道は転べば谷底まで直行という手に汗握る行程でした。しかし、苦労は報われるものです。山奥の村の人々の目は黒く輝き、温かく、子供はたくましく働き、年寄りは大事にされており、そこら中に鶏、豚、牛、馬、犬が駈けずりまわり、花はきれいに咲き乱れ、水浴びに下りた川では蛍が飛び交い、電気のないロウソクの下での家族の語らいは私たちが昔に忘れてきたなごやかなものでした。帰り道は馬にも慣れ、周りに咲く草木の花の美しさに見とれながら、桃源郷から現世に戻る詩人のごとく、後ろ髪を引かれる思いで帰って来ました。

 彼らは「自分らは貧しい」と言います。それは自給自足中心の生活の中で現金を持っていないことを意味していると思います。しかし、現金を多く持っているわれわれが彼ら以上に豊かかというと考え込まざるを得ません。確かに医療の整わない村ではガンになれば死ぬしかなく、寿命は短いでしょう。しかし、生きることの質的内容では、子供でも社会の役割分担が明快で生甲斐を感じつつ、また自然の中での創造者、人、動物、植物の中での序列を意識しながら生きることの尊さを知らされました。反面、日本からの援助のために来ている自分が何をすべきなのか、自然のルールを壊さずに、単なる大量消費の恩恵を持ち込むだけに終わらない方法を考えるべきことを教えられた旅でした。

(本件は、医療システム支援のNGO・HADSよりABICに照会があり、物流会社の役員としてロジスティックの経験を積んでおられた阿部氏を推薦したものです。)

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