マンスリー・レポート No.23 (2002年10月)
活動会員のレポート
  長野県中小企業振興公社に勤務して
   

黒岩 浩一(元 住友商事)

 平成14年4月から長野県中小企業振興公社の新設ポストである海外取引アドバイザーとして週3日程度勤務している。半年限りの予定であったが1年になりそうだ。

 海外、特に「世界の工場」化している中国へ日本の大企業が続々進出したので、部品製造の下請け中小企業が多い長野県産業界は大打撃を受けた。追随して工場進出した下請け企業の中で非常に苦戦しているところも少なくない。成功しても本社工場空洞化の問題がある。中小企業では一発の失敗で即倒産ということになりかねないので、まだ迷いに迷っている企業もあるし、覚悟を決めて日本にとどまり、国内であらゆる工夫をしながら安い中国製部品と正面から競争しようと開き直っている企業もある。中にはすでに倒産した企業もある。

 そんな状況の中に徒手空拳で飛び込むことになり、「前例もガイダンスも一切ありませんから好きな様にやって下さい」と一任されて、初めの週はちょっと戸惑った。しかし、考えてみれば、何も判らぬ20代半ばで開発途上国に一人で放り出され、やみくもに動き回り、それで何かつかんだ時と同じである。40年若返って同じスタイルでやってみることに決め、セールスマン、御用聞きよろしく県内各地を自分の車で走り回る日々である。足腰の達者さとなんとかなるさという楽天主義だけが商社営業たたき上げのわずかな取り柄だが、それがこんなところで役に立つとは思わなかった。四季折々きれいな信州路の独りドライブと、5人に1人ぐらいの割合で実に個性的で見識の高い中小企業経営者と出くわすのが楽しみでもある。また、大手の商社、メーカー、銀行等の出身者で豊かな自然に引かれて信州に転入し、中小企業で働いている人や家の事情などでUターンした人(小生もそうだが)にも何人かお会いした。極めてハッピーにやっている人もいるし、以前勤めた大組織とワンマン社長の中小企業組織でのやり方の落差に戸惑いが続いている人もいた。

 似た分野で活動するJETRO長野貿易情報センターは、国内外の組織網を使って資料整備・提供、相談サービスやセミナー・シンポジウム・商品展示会の組み上げ等マクロの仕事に追われて、ミクロの個別企業相談については十分手が回っていない。こちらは逆にミクロからのアプローチに徹することにしたので、JETROとの相互補完・協力関係が自然にできあがった。資料入手や情報交換など随分JETROのお世話になっている。

 実際に動き回ってみると、当方は営業出身の感覚を生かして商売的な駆け引きを含めた助言もできるし(これはやりすぎると公社の立場では多少問題が出てくるのだが)、口幅ったいが結構小生の存在感も出てきた。残念ながら具体的成果にはまだ乏しいが、(1) 日本残留・国内営業力強化を図る企業にABICの協力を得て商社OB営業要員を紹介できたとか、(2) 悲壮な覚悟で中国進出の検討を始めた下請け企業にこちらも真剣に実務の相談に乗っていたら、同情した親会社が内地での部品発注を一定期間保証してくれるという思わぬ効果が出たとか、(3) 本筋外だが、中国の医用食材大量持ち込みにつきやや怪しげな相談を受けて、違法輸入を未然に防ぐ(?)、等々の成果もあった。

 長野県には小粒だが高水準の技術を持ったまじめな会社がたくさんある。数百人以上の比較的大手や、それほどでなくても独自の技術や最終製品を持っている企業は産業環境の変化に対して苦しみながらも何とか適応している。しかし十数人から百数十人規模で従来親会社の言うがままに部品の小型化・精度向上・コスト切り下げだけに励んできた企業は概して自前の情勢判断力と営業力を持っておらず、親会社の工場が外国に出てしまうと途方に暮れるところが多い。この辺りを多少なりとも補っていきたい。

 また過去の長野県政においては利権・談合絡みで土木建設業界が実勢以上に幅を利かせていた様だが、製造業の比重をもっと高める必要がある。農業や観光業との接点についても工夫が必要だ。この意味で、先の知事選挙で田中県政の継続が決まったのは良いチャンスだと考えている。

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