マンスリー・レポート No.39 (2004年3月)
活動会員のレポート
  ポストコンフリクトにおける平和構築(信頼醸成)活動
    NPO法人 日本紛争予防センター 在スリランカ事務所代表 笹井 英毅(元 丸紅)
対話による民族融和ワークショップ(中央:筆者)
スリランカでのこの種の活動にはシンハラ語、タミール語の通訳が不可欠

 1950年代以降今日に至るまでに世界の地域紛争は約50件発生しており、この内、国家間紛争は9件、残り41件は全て国内紛争(内戦)である。国内紛争の多くは、米ソ2大イデオロギー体制がソ連邦の解体によりそのバランスが崩れた80年代後半の冷戦終結を契機として、それまで抑えつけられ、逼塞していた不満が一挙に発展途上国を中心に顕在化し始めた結果である。これら国内紛争の中には反政府武力闘争、政治的ヘゲモニイズムが結果的に民族間の紛争に繋がったものが含まれているため、狭義の「民族紛争」としての位置付けがどこまでできるのか、自分には社会学的に定義付けをする知識はないが、イデオロギーの違いによる反政府武力闘争を除き、民族の異なりを名目に、または結果的に武装闘争に繋がったものを広義の「民族紛争」と位置付けるのであれば、30件以上がこの分類に入る。

紛争解決・復興途上のアフガニスタンとスリランカ

 南アジア、東南アジアにおける80年代以降に顕在化した地域紛争は、4件であるが、ミャンマーの軍事政権に対する反政府武力闘争とカンボジアの政権間武力紛争を除く、アフガニスタン、スリランカが「民族紛争」に位置付けされる。これら2ヵ国に対しては、外国政府、国連、国際機関、国際NGOが経済的、人道的支援を継続しており、紛争解決・復興途上にある。

 これら2ヵ国に日本NGOの現地代表として、平和構築(信頼醸成)に従事した(している)経験を基にその側面に触れてみたい。

「信頼醸成」による「民族融和」が不可欠

 ポストコンフリクトの復興支援には経済的支援と並行して、再発防止のために民族・部族間の相互信頼関係の増進、「信頼醸成」による「民族融和」が重要かつ不可欠であることは広く認識されており、国際NGOの活動分野として大きな期待がかけられている。この「信頼醸成」活動には、「アドヴォカシー型」と「グラスルーツ型(草の根型)」がある。前者は、問題分析、解決方法論、提議を数日間のセミナーを通して外部にアピールする方法であり、後者は、地域住民を対象とした現場での対話による啓蒙教育に重点を置いている。

(注1) スリランカにおいては、民族、宗教が不分離であり紛争に大きく関係している。従い、仏教、ヒンドゥ教、イスラム教、(キリスト教)のバランスを取る必要がある。憲法上、仏教を国教とすると言われており仏教徒が政治的にも影響力が強く、民族紛争(シンハラ人/仏教、タミール人/ヒンドゥ教)の大きな要因にもなっている。
(注2) 研修期間中参加者には、手当て(US$30くらい/月)が支給される。

 自分の所属する「日本紛争予防センター」のアフガニスタン、スリランカにおける活動は折衷型であるがどちらかと言うと後者に属する。この活動は、民族、宗教(注1)のバランスを取って選ばれた30名前後の参加者(注2)が数ヵ月間、訓練されたファシリテイター(多くは紛争予防学を大学院レベルで専攻している)の指導の下で平和構築の基本知識教育をインタアクティブ形式で受け、フィールド活動を交互に繰り返しながら、その輪を異なる民族地域住民に広げ「民族融和」を図ることを目的としている。

 このためには異なる民族(宗教)間の「信頼醸成」を育成するワークショップが不可欠であるが、ワークショップ終了後のフォローアップをどの様にモニターしていくか、その効果・成果をどの時点で認めるのか、どのような基準で評価するのか、その目的が形而上的なものであるため非常に難しい問題を含んでいるが、特に、フォローアップをどこまで長期的、継続的に続けられるかの点が、平和構築活動の成果を大きく左右することになる。

期待される「民族紛争予防・解決」に対する日本の貢献

 「民族紛争」の多くは政治のヘゲモニーに大きく左右される。スリランカの民族紛争は正にそれである。従い、国民一人一人が政治的に利用されないためにも民族間の「信頼醸成」による「民族融和」の意義を認識し、日常社会生活を通して反映させるよう努力せねばならない。また、国際NGOも長期的視野に立ち、継続的にその醸成を支援していく必要がある。欧米社会においては、社会的・宗教的背景もあり、平和構築(民族融和)活動に対する認識が高く、これら活動に従事する団体に対する資金支援も積極的であるが、アジア社会、とりわけ日本社会においては、‘人作り(国作り)は百年の計’とか‘米百俵’等、観念論は常に先行するが、‘姿’‘結果’が最初より見ることの難しいこの種の活動に対する具体的支援は官民共に消極的であることは現実であり、物資支給、道路、構造物修復等ヴィジブルな支援に偏りがちである。これら経済的支援は非常に重要であり、復興支援、紛争再発予防にも大きな貢献であるが、「民族紛争」は異民族間の信頼欠如であることを基本的要因であるとすれば、啓蒙・情操活動分野への支援の必要性を再認識する必要があるのではなかろうか。

 スリランカにおける「民族紛争」はシンハラ人(政府)とタミール人を代表していると自らを位置付けるLTTE(タミールイーラム開放の虎)との紛争であるが、現在の休戦協定が恒久平和協定(交渉が始まっている)に繋がっても、次の民族紛争が東部においてタミール人とモスレム人との間に発生する(既に発生している)との見方が大勢を占めており、国連、国際NGOsが紛争予防に向かって活動を開始している。日本国憲法前文に「国際貢献」の条文挿入が検討されている今日、「民族紛争予防・解決」に対する日本の貢献は、経済支援と並行して草の根型啓蒙・情操活動においてもますます期待されるところである。


同じ民族に属していても高地シンハラ・低地シンハラ、スリランカタミール・インドタミールと言うカースト的概念が依然として残っており、異なるカーストとの結婚は今でも忌避され、インドタミールは職業的選択も限定される。また、インドタミールは1988年にスリランカ国籍権がようやく与えられた。
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