マンスリー・レポート No.58 (2005年10月)
活動会員のレポート
  ―阪僑世界駆け歩き― シリア繊維産業マーケティング・アドバイザーの巻
    JICAシニア海外ボランティア
シリア地場産業育成
大西おおにし 定行さだゆき(元 伊藤忠商事)
JICA シリア事務所前にて(筆者)  

 私の専門は繊維です。商社退職後、JICA SV(Senior Volunteer)に挑戦し、ヨルダンに続き、2003年から3年間、シリア工業省で繊維産業のマーケティング・アドバイザーを拝命し、来年3月に帰国します。
 役割は、同工業省に設けられた繊維産業近代化プロジェクト・チームに属し、政策提案および公・民両セクターの企業訪問コンサルタンシーを公・民両分野各1名のCP(カウンターパート)と共に行い、OJTを通じ、知識・ノウハウを彼等に伝授することです。

 シリア繊維産業は、首都のダマスクが高級ジャカード織物の代名詞になっているほど、歴史上の繊維先進国でした。しかし、1963年、社会主義政党バース党政権樹立後、川上・川中の主要繊維企業27社が国有化され、官僚による旧ソ連式安物大量生産方式で世界のファッション市場から乖離、在庫の山に囲まれて赤字を累積中です。
 ただし、シリア社会主義のユニークなところは、この40年間にも中小民間企業の存続を許し、これが今や、川中・川下および国内では生産していない合繊の輸入加工など、非国有化分野で繊維産業近代化の原動力になっていることです。
 シリアの主要製造工業は、食品、繊維、化学品、酪農製品、世界第9位の綿花、日産50万バレルの原油で、それぞれの輸出市場は、歴史的・地理的にもEUと近隣アラブ諸国です。
 繊維産業は、国産綿花25〜30万トンに加え、輸入合繊10万トンが毎年紡績・織布・縫製に投入され、貴重な外貨獲得とともに雇用吸収面でも貢献しており、石油資源が後10年程度で枯渇するとも言われるだけに、まず繊維産業を確立し、次代の産業につなぎたいというのが工業省の悲願でもあり、国連、EU、JICAの支援方針でもあります。
 シリア繊維業界からは、国内では生産していない合繊の加工技術、特に染色仕上、廃水処理、縫製、デザイン等の専門家の派遣を要請されており、経験豊富な商社マンOB各位のご出馬が期待されています。

工業省アジジ次官(中央)、カウンターパートのナディアさん(右)と
アラブ組織連盟シャラバチ会長(アレッポ工業会議所副会頭)(左)、ナディアさん(中央)と

 当地での生活は、治安は周辺諸国に比べても良好です。農産物、酪農製品ともに豊富で安価、一方、輸入品は周辺諸国に比較し、品薄でやや高価です。ただイスラム教の生活に対する干渉度は低く、キリスト教徒もいるため、酒類もブドウ酒、ビール、アラク、イスラム禁制の豚肉・ハムも入手可能です。
 日本に対するイメージは最高で、日本でのシリアに対する無関心が信じられないほどです。日本ブランドが街に溢れ、英字新聞Syria Timesは連日、日本政府からの援助やJICAの活動を称える記事を伝え、衆議院の選挙関連記事も今回はよく報じられました。
 繊維関連業でもトヨタ、ムラタ、津田駒、島精機の紡・織・編機、ジューキ・ブラザーの縫製ミシン、YKKファスナーなどいたる所でお目にかかりますが、各企業とも国内に事務所がないため、EU企業に比べ、技術指導・部品発注の面で不便との意見をよく聞かされます。
 首都のダマスカスや北部の主要都市アレッポは7,000年も前から人々が住み続ける世界最古の都市ですし、諸文明のクロスロードに位置するこの地域は歴史遺産の宝庫で中東に平和が戻れば観光大国になるでしょう。
 ただ現在、この国で活躍する日本人は、大使館、JICA、国連軍に参加の自衛隊員が主で、民間企業は皆無に近い状況で、民間の復活需要がEU企業の金城湯池になっているのは残念です。日本企業、特に尖兵たる商社の復帰を期待してやみません。

(注)阪僑はんきょう:海外へ出ている商売上手の大阪人のことを現実的で商才がある華僑に模して「阪僑」と呼ぶ。

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