マンスリー・レポート No.81 (2007年9月)
 

「IAAF世界陸上2007大阪」開催に協力、ボランティアに参加

 8月25日から9月2日の9日間にわたり「IAAF世界陸上2007大阪」が大阪の長居陸上競技場にて開催された。ABICはこの大会開催に協力し、2006年度より組織委員会のボランティア委員に就任した藤原照明会員(元 丸紅)とボランティアコーディネーターとして大阪大会組織委員会経由で登録の赤田堅会員(元 丸紅)、藤井眞会員(元 丸紅)、大北充吉会員(大阪大学院生)の4名が大会開催準備段階から終了までの1年半にわたりそれぞれボランティア活動に尽力した。また選手村でのチームアタッシェ(選手団付担当)として野村哲三会員(元 三菱商事)、大隅国雄会員(元 伊藤忠)の2名が語学対応ボランティアとして活躍した。以下は、藤原会員、赤田会員、野村会員から寄せられた活動のレポートと感想である。

「IAAF世界陸上2007大阪」ボランティア委員に参加して

藤原ふじわら 照明てるあき(元 丸紅)

 世界200余の国と地域より約3,000名の選手代表団が集まり開催された大阪では近年にない大きなイベント「第11回IAAF世界陸上競技選手権大阪大会」(IAAF World Championships in Athletics)が、8月25日から9月2日までの9日間、長居陸上競技場で行われたのは記憶に新しいところである。(IAAF:International Association of Athletics Federations、国際陸上競技連盟)
 世界陸上は、1983年ヘルシンキの第1回が始まりで、4年に1度開催されていたが、1991年東京大会以降は2年に1度となり、オリンピック、FIFAワールドカップと並ぶ世界3大スポーツイベントの一つとして数えられている。日本での開催は1991年の東京大会以来16年ぶりである。

外国語追加ボランティア募集についての打ち合わせ
筆者(左から2人目)
 ABICは、この大会に2002年サッカーワールドカップでの通訳ボランティア実績を買われ、昨年春、大会の「ボランティア委員」として大阪大会組織委員会より正式に指名を受け、活動に参加することとなった。
 当初は関大阪市長はじめ吉本の笑い芸人や、棒高跳の沢野選手、短距離の末次選手、走り幅跳の池田選手などの有名選手ほか、関係者が多数参加して賑やかなパーティが開かれるなど陸上競技に全く知識もないまま我々も大いに盛り上がり、委員会も順調に走り出した。
 ボランティア委員はABICのほか体育大学の陸上競技専門家および大学教授など強力なメンバーで構成され、その活動の第一歩はボランティアの核となる80名のリーダーを選別することから始まり、幅広い広報活動が開始された。
 しかし、ボランティアリーダー(後にボランティアコーディネーターと呼称変更)応募者は委員会の当初の目論見を大きく下回る18名のみ(内ABIC会員および関係者は4名)と船出は決して順調なものとは言えず、委員会ではリーダーはじめ一般ボランティアを含む募集に本格的に奔走することになった。
 我々ABICは、関西の有名大学での講座担当の実績を活かして、各大学に組織委員会の担当者と共に訪問し、ボランティア活動参加と協力を依頼した。しかし、大会期間中の9日間だけなら問題は少ないものの、大会開催までの約1年半の間、相当回数の事前打合会に出席せねばならないなど活動内容は結構厳しく、交通費も出ないという全くのボランティアであった。したがって外国語のできる日本人学生あるいは日本語のできる外国人留学生の応募を求めるのは容易ではなく、当初の目論見とは異なり、順調とは言えない状況に直面した。
 その後、関係者の懸命な努力により全国および外国からのボランティア希望者も集い、一時はそこそこ順調に行くかに見えた時期もあったものの、度重なる研修に加え、具体的に仕事の分担を決める段階になると、当初希望の活動内容と組織委員会から割り振りされた活動内容との思いの差が出てきたり、希望勤務時間帯の思い違いなどの問題が頻発した。大会の始まる8月に入ってもフランス語、ロシア語のボランティアが多数不足するなど開催間際までバタバタしたのが正直なところであった。
 しかし、最終的には関係各位の総力を結集し、ボランティア登録数約6,000名になり、ご承知の通り無事に大イベントを終えることができた。このような世界的なイベントが今後身近なところで発生する可能性は極めて低いが、今回の貴重な経験を今後の国際社会貢献に活かしていければと願っている。

世界陸上ボランティア奮戦記

赤田あかだ たけし(元 丸紅)

 まずクイズです。下記の中で3項目答えられた方は相当な陸上通です。(1) トラック競技で中距離はmiddle distance、長距離はlong distance、では短距離は? (2) 競技名:Steeplechase、PoleVault、ShotPut、Heptathlonは? (3) 世界陸上の入賞者には賞金が出る。優勝は?ドル。(正解は文末参照)
 年初来ABIC活動会員の藤井眞さん(元丸紅)、大北充吉さん(大阪大学院生、来春より三井物産勤務)と共に18名のボランティアコーディネーターの一員としてボランティア・ハンドブックの作成、ボランティア募集の手伝い等々の事前準備作業に、平日は午後7時から9時半まで、土・日は半日あるいは終日、また直前には容赦なく蚊の押し寄せる中、ユニフォームの配布作業等にも携わってきた。
 この18名は、ボランティア精神の真髄を極めた志の高い人達であった。過去の国際イベントでのボランティア経験も豊富で、本来80名分の仕事量を18名で質量両面においてカバーし、関係者からも高い評価を得た。
 大会期間中、藤井さんはADカード(Accreditation Card)、大北さんはドーピング部門、私は選手村の一つがあるホテルでのTDI(Technical Information Center)に配属となった。同ホテルにはイタリア、ルーマニア等11ヵ国383名の選手団が宿泊。ブラジル、キューバ、ボリビアはスペイン語で、残りは英語で応対。日本陸上競技連盟(陸連)から派遣された二人の専門家(元陸上選手で現在も審判員として活躍)の通訳業務である。文字通り技術的諸点の総括であった。

 2点のみエピソードを下記する。
 その1:8月23日に試合で使用するユニフォームの写真撮影をした。これにパスしたユニフォームでなければ競技場では使用できない。具体的にはスポンサーの商標のチェックである。スポンサーは当然自分の商標を少しでも大きく表示したがる。そこで数ミリ単位で大きさが超過するものが出てくる。選手団役員は使用しているうちに伸びたもので、新品の時には範囲内であったと主張。ならば新品を持ってこいと要求すると持ち合わせがないといった駆け引きがあり、(内心では選手団に好意を持ちつつ)通訳していく。
 その2:ある日の午前11時前に見慣れない人達が現れ、「昨日、選手会代表を選出する選挙の詳細が決まり、3日間、毎朝8時から午後2時に各選手が自分達の代表を選出する選挙が行われるが、このホテルでは何の準備もされていない。責任者を出せ」とえらい剣幕。我々はこの様な話は一切聞かされていなかった。そもそもTDI業務とは関係ないことであるが、聞けば組織委員会の手落ちであり、主催国の一員として私は知らないでは済まされない問題である。陸連の二人から直ぐ本部に連絡を取り、一時間後、無事解決した。後日談だが、陸連の知り合いに茶飲み話として話したところ「お前が応対した国際陸上競技連盟の幹部はナンバー3の偉いさんで、こじれていたらえらいことになっていた」と変な慰めを受けた。

 私のシフトは午前6時から午後3時まで、後は日系ノルウェー人が交代してくれた。彼女はロンドン在住で外見上は全くの西洋人であるが、英語のほか日本語とスペイン語は問題なく、性格が底抜けに明るく仕事場の雰囲気はとても良かった。陸連のお二人もさすがスポーツマンで楽しく業務をやらせてもらった。
 午前6時に間に合うためには4時起きで始発の電車で通う。エスカレーターは始動前であり、梅田からホテルまでは20分余り地下道を通らねばならない(信号のある地上では集合時間に間に合わない)、冷房はもちろんない。キヨスクもまだ開店前で、我がタイガースが勝ってもスポーツ新聞は買えなかった。

【クイズの回答 (1) Sprint Events、(2) 障害物競走、棒高跳、砲丸投、7種競技、(3) 優勝は60千ドル、世界記録には更に10万ドルのボーナスが出る。以下単位は千ドル。2位以下30、20、15、10、6、5、4、つまり8位は4千ドル。以上は世界陸連から出るいわばオフィシャルな賞金で、実際にはこの何倍もの賞金がスポンサーから各選手に支払われることとなる。】

世陸ボランティア奮闘記

Team France Officeの前で筆者
野村のむら 哲三てつぞう(元 三菱商事)

酷暑の大阪でなぜボランティアを:関西ホスピタリティ発揮の場であり、またトップアスリート接遇のスリル、ボランティア組織の研究、仲間と出合う楽しみもあり応募。いくら貰ったのかとよく聞かれるが、貰ったのはユニフォームと食事券1日600円。選手団受け入れから送り出しまでの15日間を、自弁で現場に連泊して一貫性の奉仕をした。

どんな仕事をしたか:(1) 宿泊・輸送 (2) 競技運営 (3) 選手団付アタッシェ の3分野があり、競技は午前と夕方・夜間に集中。9:00〜15:00「早番」と15:00〜23:00「遅番」に分れる。私は、選手村で94名フランスチーム付「遅番」。英語OKだがフランス語もちょっぴり役立つsolution providerで昔の経験が正に生きる役割。ボランティア仲間は学生、自由業、有給休暇のサラリーマン、語学教師、主婦、企業OBと多彩であった。

開会式 日本選手の入場
困ったサン対応:担当外の「困ッタさん」の助っ人もする。情報不足でイライラする来訪者に笑顔でやさしく繋ぐ。「日本はいま暑いでしょう! 選手の健康は大丈夫ですか? いま頃お国の気候はいかが?」。フィンランド人「これまで四国でトレーニングしてきたので暑さには慣れました。本国では通常23℃までですが今年は30℃まで上がりglobal warmingが心配! ところでさっきの回答はまだですか?」とイライラする。「はいはい、もう直ぐ回答が出ますよ。ご辛抱に感謝です!」と言ってニコ〜っとするsmoother役。

いよいよ開会、我がチーム・フランスは:総領事歓迎会で気勢を上げる。天皇陛下の開会宣言で競技の号砲、粛々と進行する。忙しくなりアタッシェ間の引継ぎ「ホウレンソウ」にパソコンで作業を始めると、隣のデスクから「こちらが先だ!」とにべもなく割り込まれ、何と肩身の狭いこと! でも仲間10人は親密度も深まる。

選手が怪我をした:7種競技で選手が怪我をした! チームドクターを現場へ急行させ、現場医務室へも電話しようとしたがとっさに番号が分からない。周りに聞くが誰も知らない。自分のメモから上級役員へ直接電話して急場は上手く凌げた。本人は車椅子での帰国となったが、何とさっき尋ねた隣の班長から、「なぜ直接役員に電話したのか! 私があとで叱られる。出過ぎたことをしてもらうと面子がなくなる!」と強く苦情。あれ〜っ! それってとても変な話だ!!

ホテルで短パンツ選手がたむろしては困る?:選手村ホテルでの話。「フランス選手3人が短パン姿で床にしゃがみ込まれては見苦しい! 排除せよ!」とホテル論理の凄い剣幕。騒ぐでもなし、静かにしゃがんでパソコンタイム。椅子を用意するようアドバイス。スポーツ選手が短パンやしゃがみ込むのは普通。競技前の選手は神経ピリピリ、ホテル論理で怒ったような「直訳」をしては角が立つ。通訳が通訳をしなかった話。そのほか次々問題が起こったがすべて解決。

大会は見事に終結!:鍛え抜かれた肉体美のアスリートが、より速く、より高く、より遠くを競ったが、連日の酷暑で有力選手が倒れる。大会新がやっと2つ。順位は、1位米国、2位以下ロシア、ケニア、ジャマイカ、ドイツ、英国、中国と続く。日本は頑張った女子マラソン土佐礼子の銅メダルと入賞6人で19位と振るわず。我が「フランス」は銀メダル2個と入賞8人で12位。役員は成績が悪かったと嘆く。「次ぎですよネ、次ぎ!」と慰めるのが精一杯。

総括volunteerism:近年volunteerismは飛躍的に進化し、組織論も研究された。しかし現場の大混乱は常に起きる。効率・活性化するセンター機能はいつも大事。ボランティアは礼節と円満な常識が大事。少々英語が出来ると尊大無礼になりやすい。「電話ゲーム」式の情報伝達も困りもの。訂正情報が頻発され外国人には大迷惑、大ひんしゅく。よかったことも多々あった。問題が起こるとシニアの知恵で若者が感心、新鮮な勉強になったようだ。素敵な人にもたくさん会えた。ついでにABICへの加入も推薦した。

最後に:閉会式もオリンピックと異なり、シンプルに終了。information caring and sharing spiritで大仕事が終わった。空席が目立ったスタジアムへ「近隣の学校の生徒たちにもっと無料開放したら良かったのに」との声しきり。4,200人のボランティアは出場選手と同じ「大会感謝状」をもらい大満足。お疲れ様でした!

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