マンスリー・レポート No.92 (2008年9月)
活動会員のレポート
  初めて大学の教壇に立って
      児玉 こだま 正博 まさひろ (元 日本通運)
ニューヨークのアップタウンにて(2008年10月10日)

 2008年6月11日、青山学院大学青山キャンパスに於いて、非常勤講師として講義をすることとなった。「公園デビュー」ならぬ「キャンパスデビュー」である。ABIC特別講座として実施さている「国際ビジネスと海外事情」の一環に「知られざる米州事情とビジネス」があるが、その中の『米国の観光ビジネス』について語る機会が与えられたのである。

  私は長年旅行業務に携わってきたが、特に米国との関わりは、ニューヨーク勤務時代から現在まで30年以上続いている。『旅』を取り扱うビジネスは、人々に「喜び」、「感動」、そして「夢」を与える、楽しくかつ華やかな特性があるが、事業となると大変熾烈な競争を繰り広げる。米国勤務の1970年後半、すでに観光産業全体は大きく航空会社が主導しており、旅行商品は元より観光目的地の開拓もその手に委ねられ、一方、新鋭旅客機の大量購入や路線拡大など華々しく事業が展開され、米国産業界で優勢であった。私も代理店の立場からその一翼を担い、随分業界事情を知ることができた。
 しかし、環境は激変。『航空業界規制緩和』と『空の自由化政策』により、あの世界最大のPanAmが倒産、有力老舗航空会社も低迷し、航空業界を含め観光産業全般が冬の時代を迎える。加えて二度のオイルショックと湾岸戦争、そして9月11日の同時多発テロとそれに続くイラク制裁の戦いは、この平和産業を直撃した。このような状況下、サウスウェスト航空が不死鳥のごとく現れ、良質のサービスとユニークな経営戦略で高収益を上げるという劇的な展開を繰り広げることとなる。所謂、ローコスト・キャリアの出現である。
 航空業界の長期的な不振は必然的に旅行業界にも波及し、密接な関係にあった両者は、コミッション・キャップあるいはカット政策が打出されることで激変し、航空券代売の多くの航空代理店は廃業する。余力のある旅行会社は、この危機的な収入減を補うため、法人顧客に対し、出張経費の削減提案を行い、その対価としてトラベル・マネージメント・フィーを得ることとなる。現在、米国の企業の大半は、トラベルポリシーを設け、トラベルマネージャーの管理の下、大幅な費用削減を目指している。これらのコーポレート・トラベル会社は間もなくグローバル企業へと発展する。
 この産業に最大の影響を与えたのは、情報通信技術(IT)の発展による流通の大変革である。インターネットの出現で旅の素材が直接消費者に販売される中抜き現象が起きる一方、新たに異業種が参入するなど大きな変化が生まれた。また、航空業界では、経営戦略構築においてIT戦略は欠かせない重要な要素となっている。

 私は体験を通じこれらの出来事を話すつもりでいたが、果たして上手く説明できるのか、講義が近づくにつれて不安が増してきた。4月上旬、キャンパスツアーが実施され、森、布施両コーディネーターのご案内で、講師控室や講義室を見学する機会があり、また、先輩講師の方々からもレジメ作成の要領や講義の様子を伺い、気持ちもずいぶん軽くなった。レジメは簡潔に、講義は写真や表を活用し、できる限り単調にならないことが鉄則とのこと。
 講義当日、教室は若干蒸し暑い。案外冷静でいられた。 学生数は60名強、三、四年生が対象のため就職活動の影響か。また、女子学生が多いのに驚かされた。国際情勢やビジネスに関心を持ってくれることは喜ばしい。講義はイメージ通り順調に進んだが、懸念した通り残り15分が戦いとなった。盛り沢山の内容を反省しながら何とか終了したが、不慣れな講義を皆どのように聴いてくれたのだろうか。講義中は私語もなく、よく聴いてくれていたように感じたが、レポートの反応が恐ろしかった。
 10日後郵送されたレポートを急いで開封、ランダムに目を通して安堵、危惧するまでもなかったのだ。多くのレポートが私の意を解してくれたのか、的確な内容で考察が書かれていた。インターネットをコピーしたと思われるものもあったが良くできていた。印象的なものに、留学生の英文レポートがあり、綺麗な英文とともに『規制緩和の功罪』あるいは『エコツアーと地球環境問題』では、広範な問題意識と見解が述べられ優れたものであった。
 私の拙い講義は学生諸君の良質な思考力と誠実さによりどうにか様になったようだ。再び、このような機会が得られることを願い、また、もっと自己研鑽し質の高い講義ができれば、と思っている。

 
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