マンスリー・レポート No.96 (2008年12月)
活動会員のレポート
  北アフリカ、マグレブの雄アルジェリアの再生を願って
  JICA専門家 プロジェクト企画・調査アドバイザー 八幡 やはた 暁彦 あきひこ (元 三井物産)

 2004年9月からJICAの援助調整専門家としてアルジェリア民主人民共和国の首都アルジェに勤務している。 当国は、アフリカ第2位の面積で日本の約6.3倍もあり、8割強が砂漠地帯、人口34百万人の大部分が地中海沿岸に住む回教(イスラム)国である。そもそもこの一帯は紀元前6、5世紀カルタゴ時代より記録が残り、ティパサ、ティムガッド、ジェミラ等の古代ローマ遺跡が有名である。ローマの後は原住民ともいうべきベルベル政権を経て、7世紀にはアラブ人が侵攻16世紀からオスマントルコの属領となったが、1834年にはフランスが併合した。

JICA供与船舶のエンジンの前にて
高等海運学校長と筆者

 その後、第二次世界大戦後から独立運動が高まり、1954年にアルジェリア民族解放戦線(FLN)が結成され8年にわたる凄惨な独立戦争を経て1962年に独立を達成した。当初はソ連の緊密協力のもと社会主義路線を推進したが、その後、経済の悪化によりイスラム原理主義のテロが頻発、1998年までの10年間に10万人以上が犠牲になったといわれている。1999年、ブーテフリカ現大統領の就任以来、国民和解策・テロリスト掃討作戦を実施した結果、治安は大幅に改善したものの、最近、マグレブアルカイダの自爆テロ攻勢が続いており注意を要する。

 一方、世界第4位の天然ガス輸出の実績により一人当たりGDPは3,968ドル(2007年・国家統計局)であり、外貨準備も910億ドル(2007年末・中銀)と好調であるが、公式失業率(11.8%・2007年財務省)はともかく、35歳以下の失業率が7割近いと推定されていることよりも社会矛盾が広がりつつあり、テロリストたちの活動が引き続き憂慮される。

ブーイスマイル高等海運学校卒業式 毎年、運輸大臣、 日本大使を招請して行われる
オラン工科大学 (アルジェリア政府資金で丹下健三デザイン、鹿島建設建築)
清水大使列席のもと環境省に分析器具を供与した時の 式典(2008年3月)

 日本との貿易は、1960年代後半より炭化水素関連プロジェクトをはじめ大型案件が発注され、最近では5300億円の東西高速道路プロジェクトで鹿島建設をはじめとする合弁会社が700名強の日本人を投入、2010年春の完成に向けて工事中である。

 一方ODAにあっては、JICA事務所がない中で「JICA欧州事務所」と連携しつつアルジェリア側と日本との援助協力のキャパシティービルディングを図るべく、援助調整の専門家として小生が駐在しているわけである。

  これまでのJICAは、たとえば、1988年から開始し10年のテロによる中断を含んで実施したブーイスマイル高等海運学校、オラン工科大学への協力の2件の他、現在では日本に強みのある分野として環境分野の技術協力を実施している。また、地震防災対策に関する協力や、水産分野の協力として漁業訓練船の供与を水産無償によって行った実績もある。その他、毎年アルジェリア政府関係者を日本での研修に招聘しており、今やその数は500名を超えることとなった。

 さて、当地はイスラム国ゆえ「豚」は手に入らないが、エビ、タコ、タイ、マグロなどの海産物が豊富であり、秋には松茸も出回り恵まれている。ただし味噌・醤油等の日本食材は手に入らないため日本ないしパリでの調達ということになる。地場料理としては小麦粉で作った極小米粒に野菜と肉または魚を煮込んだスープをかけて食べる「クスクス」、アラブ式春巻の「ブリック」など日本人好みのメニューが有名である。

 アルジェリア人は、隣国のチュニジアやモロッコの調子のよさに比べて一般的に田舎者で比較的人がいいという評価で、一度アルジェリアに駐在した日本人達はもう一度アルジェリアに戻りたいというようにアフリカの中では珍しく人気がある。とはいえそこはアラブ、「インシャラー(神の思し召しにより)」と彼らはあたかも「イエス」の意味であるように連発するが、ほとんど「ノー」のいいわけに使われている。また、1日5回のお祈りを理由にしての弁明、あるいは断食月(ラマダン)中の非効率、さらにさすが1962年までフランスであっただけあって、ばっちり取得するバカンス等等、当方にとって仕事では大いにストレスがたまるということにもなる。

地中海の海の幸 獲れた日売り切りの
ため氷さえ 使っていない
アルジェ西方60キロにある
ローマ遺跡ティパサ

  いずれにしてもパリから2時間ちょっとで地の果てアルジェリアに足跡を遺すことができるので、皆様どうぞお越しくだされ。小生は来年9月まで駐在予定なので、その節は必ず小生にご連絡願いたし。

Copyright © 2003 - 国際社会貢献センター (ABIC) All Rights Reserved.
掲載記事・写真の無断転載・複製禁止