マンスリー・レポート No.121 (2011年1月)
活動会員のレポート
  リアル熟議で議論百出「グローバル社会人材と学校教育」
      西川 にしかわ 裕治 ゆうじ (双日、前日本貿易会広報G部長)

 2010年11月27日(土)、ABICの紹介でNPO法人JEARN(「グローバルプロジェクト推進機構」: Japan Education And Resource Network)が主催する「リアル熟議」と称する会合に出席し、「グローバル社会を生きる人材の育成と学校教育」というテーマの「リアルな熟議」に参加したのでご報告したい。
 因みに、当日は午前9時半頃から、教育関係者、中高生徒、大学生、保護者、企業関係者などの多くのボランティアが参加した。現在、商社で「グローバル人事」を担当し、また過去長年にわたり海外ビジネスに従事し、世界共通のコミュニケーション言語である英語をビジネスの現場で縦横無尽に酷使してきた?筆者としては、ABICの案内メールを受けアカデミックかつプラグマチックな興味を刺激された。
 当初、失礼ながらこの団体名は聞いたこともないので「何やろか?」とやや警戒したが、文部科学省が後援し、鈴木寛・文部科学副大臣も出席とのことで安心し参加を決めた。

さて、JEARNとは何ぞや?
 そのホームページによると、「世界最大の国際教育ネットワークである“iEARN”(iはinternational)の日本センターとして、学校と地域との連携を基礎に活動している」とのこと。またiEARNは、世界130カ国・30言語・教員2万6千人・生徒200万人・200プロジェクトからなるグローバルなNPO教育ネットワークで、毎年150以上の国際協働プロジェクトをICT(情報通信技術)を活用して推進しているとのこと。

ならば熟議とは?
 最初は「熟女と議論でもするのか」とやや期待したが、文科省のウェブサイトによると、『多くの当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくこと』と、しごく真面目なもので、鈴木副大臣が中心となり教育改革のための「政策創造エンジン」として推進されている以下プロセスのようだ。
 (1)多くの当事者(保護者、教員、地域住民等)が集まって、(2)課題について学習・熟慮し、討議をすることにより、(3)互いの立場や果たすべき役割への理解が深まるとともに、(4)解決策が洗練され、(5)個々人が納得して自分の役割を果たすようになる、ということだ。

 

<午前の部>

カナダ大会に参加した生徒の体験談
iEARN創始者との国際テレビ会議

中高生達の堂々たるプレゼン
 午前の部では、山崎誠・衆議員議員による「平成の開国、まずは心を開く」と題した講演や、参加者数名による活動紹介・報告があったが、特に興味深かったのは、iEARNが昨年カナダで開催した世界大会に参加した女子中学生(2年生)1名を含む中高校生4名による体験報告だった。
 ある生徒は、後輩の生徒を連れ自分たちだけでカナダに行くために、心配で道順を何度も調べたとか、現地で自分の考えが英語で十分表現できず苦労した体験や宿舎をシェアーした外国人生徒と友達になった話、また、英語が使えると世界中の多くの人たちとコミュニケーションができるという実感に基づき、「もっと英語を勉強したい」という強い決意などを話した。
 生徒達は“某国”の総理大臣とは異なり、自分自身の言葉で実に堂々と語り、「どうしたらこんな頼もしい若者が育つのか」と久し振りに新鮮で明るい驚きを覚えた。
 関係者のプレゼンに続き、20年前に米国でiEARNを創設したピーター・コッペン氏とインターネットでつなぎテレビ会議が実施され、続いて台湾で同じ活動を展開するパワフルな女性高校教師ドリス・ウーさんともテレビ会議がなされた。


<午後の部>

鈴木寛・文部科学省副大臣の講演

文部科学副大臣との熟議
 昼食後13:30から、鈴木寛・文部科学副大臣による日本の教育問題に関する講演と質疑応答がなされ、参加者からは熱心な質問や意見が噴出し、当初予定の30分が1時間にも延長された。鈴木副大臣は、関係者との「熟議」を通じて政策を創出し日本の教育をアウフ・ヘーベン(止揚)していくとのことで、今後の活躍に多いに期待したいものだ。

リアル熟議
 続いて15:10からは、参加者が以下のテーマで4チームに分かれ、2時間の熟議を行った。
「ダイバーシティーとグローバル人材像」
「英語教育をはじめとした外国語教育」
「国際教育」
「ICTを活用した交流学習・情報教育」

 因みに、筆者は上記2)のグループに参加したが、このグループは、高校生、大学生、高校教師、大学教員、学習塾主催者、長年米国で仕事をした国際人風の男性、英語教材等の出版社幹部、ビジネスマンなど約10名で構成。全員が何らかの形で英語に関わりを持つも、年齢は10代から60代、職業もバラバラという非常に珍しいグループでの議論となったが、そこで出た意見の一旦をご紹介したい。

熟議テーマ:「英語教育をはじめとした外国語教育」

  1. (高校生)カナダのiEARN世界大会に参加したが英語が聞き取れなかったのでリスニングの重要性を痛感した。映画や音楽を使い英語を聞き取れるようになりたい。
  2. (ビジネスマン)英語はまず会話から習得し、次の段階で読み書きを学習するのが自然でかつ効果的では。
  3. (大学教員)いや、会話、読み書き、文法、語彙などをバランスよく織り交ぜて学習すべき。
  4. (複数)日本では、大学入試が日本人の英会話能力習得を大きく阻害しているので、入試制度を変えないと生きた英語能力習得は難しい。
  5. (高校教師)学校では学習指導要領に沿って教えていかねばならず、限られた時間では、洋画を見せたりして生きた英語を学ばせることが現実には難しい。
  6. (出版社幹部)日本の英語教育のやり方は、これまでほとんど進化しておらず、英語教材を制作・販売する側からみると、昔と同じ教材を大した改良も加えず、これからも売り続けることができるので楽である(という切実で逆説的な問題提起)。
  7. (学習塾主催者)最近の小学生は、親が甘いので、しっかり勉強する癖がついておらず、集中して学習するための「基礎体力」がついていない。それが、その後の本格的な学習に悪影響を及ぼしているのでは。
  8. (複数)語学はあくまでコミュニケーション・ツールなので、いくら習得しても、話す中身がないと使えない。
  9. (複数)日本人はまず日本語でのコミュニケーション能力を鍛えないと、いくら英語だけを勉強しても使えない。
  10. (ビジネスマン)最近の報道によると、日本企業が高い費用をかけてでも、中国、韓国などの優秀な学生を採用する動きがあるが、日本の大学は企業が必要とする人材を十分に育てていない可能性があるのでは。
  11. (大学教員)自分は大学で英語も教えているが、過去に企業で働いた経験があり、ビジネス英語を重視している。最近の大学では実用的な英語を重視する傾向はあると思う。一方で、ビジネスの現場を知らない大学教授陣は、現場で使われている英単語の意味も十分に理解してない可能性がある。また、最近の大学生の英語能力は落ちており、入学後に中学レベルの英語からやり直す必要性を感じることもある。
  12. (別の大学関係者)某トップクラス大学の英語教授陣は、シェークスピアなどの古典的な英語を重視し、実用的な英会話、ビジネス英語などを低く見ており教えていないようだ。
  13. (某トップクラス大学に在学する学生)確かに、そのような実用的な英語を教える講義の存在は聞いたことがない。
  14. (別の大学教員)あまり英語、英語と大騒ぎするのはおかしい。それよりも他に勉強すべきこと(専門分野)があるはず。

 などなど、非常に興味深い議論が活発に交わされた。また、大学生からは、「自分達学生には何が足りないのか・必要なのか」など熱心な質問も出た。また無理もない話だが、年寄りの議論に簡単には入れずモジモジしている女子高校生に「君は英語の授業は好きか」と質問したところ「授業は楽しくて大好きです」という(予想を裏切る)心強い答えが返ってきたのが大変嬉しかった。

リアル熟議報告会
 熱のこもった熟議の後、17時過ぎから約30分間、各グループの代表による塾議内容の報告を行なった。その中で、「ICTを活用した交流学習・情報教育」について報告した某トップクラス大学の男子学生の「自分は理系なのに、文系の外国人にITC技術で負けた」という体験談を交えたテンポの良い見事なプレゼンを見て「日本の若者にもまだ望みはある(かも?)」との思いを強くした。
 今回の熟議を通じて、日本のグローバル化に対する大きな壁も痛感したが、同時に、この“壁”は紙と発泡スチロールで作られた見せかけの壁であり、日本人が少しだけ発想を変え、その気になれば簡単に崩せる壁でもあることも実感した。
 こうなったら、沈没しそうな日本の中で無駄な抗争にうつつを抜かす老獪政治屋さんや利権屋さんは当てにせず、やる気のある若者たちと我がABIC&日本貿易会の連合が力強く立ち上がるしかない。

A〜A〜O〜!

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