活動会員のレポート

在日ブラジル人子弟の支援活動について

もり 和重 かずしげ (ABIC中南米コ-ディネーター)


浜松市のブラジル人学校で
寄贈図書を読む生徒たち

 既に本誌(2009年3月)でも紹介しているが、三井物産の社会貢献の一環としての在日ブラジル人子弟の支援プロジェクトに関し実施業務の委託を受け、2005年から実施している。

 1990年頃から“デカセギ”家族として来日している日系ブラジル人の学齢期の子弟約3万人は、三分の一は日本の公立学校に通学、約三分の一はブラジル人学校へ就学、約三分の一は不就学・不登校となっているが、いずれも劣悪な教育環境や生活条件の中にあり、日本語教育を含めた教育環境・生活条件の改善が求められていた。

ブラジル人子弟への支援プロジェクトの実施(ABIC)

 三井物産の支援は以下の3つの方法で行う方針を決め、ABICはその実施業務を引き受けている。 1. 日本公立学校に通学する生徒のための漢字と算数の副教材の開発、 2. 大小約100校に上るブラジル人学校への支援、 3. ブラジル系NPOを通じての不登校・不就学生徒の就学支援である。特に力を入れたのはブラジル人学校への支援である。
 100近くのブラジル人学校が群馬、静岡、愛知、岐阜など各地に開校されているが、個人、有限会社、NPOなどの形態であり、日本では私塾扱いで公的な支援はない。一方、ブラジル教育省の認可を受け、本国のカリキュラムで運営されている学校が約30校(現在は50校)あったが、私立学校なので公的支援はない。よって、この中から4年間で30校を選び、教育資材、実験用具、書籍、施設のリフォームなどの要望に応じて各校5百万円(総額1億5千万円)の支援を行った。

学校支援から奨学金供与へ

 しかしながら、2008年末から日本を襲った世界経済不況の波は、多数の在日ブラジル人労働者の派遣切りに繋がり、親が学費を払えないためブラジル人学校の生徒数が軒並み半減したため、多くの学校が経営危機や閉校に追い込まれている。一部生徒は、親と帰国したものもいるが、大半は自宅に閉塞しているケースが多い(日本語能力不足のため日本の公立学校への転校は少ない)。この様な危機的状況解決の見通しがないため、2009年度の支援について三井物産と協議の上、不登校・不就学の生徒を救う方法として、ブラジル人学校経由で生徒に奨学金を支給する方針を決めた。第一段階として2009年は9月から12月の4ヶ月間、従来の支援校を中心に15校を選択し、生徒170人に対し月額1万~2万円の奨学金を支給した。ブラジル人社会からは高い評価を受けたので、実施方法や管理方式も再検討し、2010年度(1月~12月)は更に12校を追加し、27校合計280人の生徒に対し支援を行なっている。


常総市虹教室で学ぶ生徒たち
虹の架け橋教室プロジェクト

 一方、日本政府もブラジル人失業者の急増による社会問題化に危機感を感じ、2009年初めから様々な緊急支援対策を始めた。その一環として、文部科学省がブラジル人学校の不登校・不就学の子どもに対する緊急支援のために37億円の補正予算をとり、3年間の緊急プロジェクトとして日本の公立学校への受入れを円滑にするための日本語教育を中心とする「定住外国人の子どもの就学支援事業」(通称「虹の架け橋教室」)を発表し、2009年9月に第一次公募を行った。
 ABICも三井プロジェクトで支援をしているブラジル人学校から協力要請があったため、「虹の架け橋教室」プロジェクト・チームを編成し、茨城県の下妻市及び常総市のブラジル人学校2校と提携し応募した。約40ヶ所が応募し審査の結果、22教室が認可されたが、ABICの2教室も認可を受けた。
 2009年12月から2010年3月まで上記下妻市・常総市の2ヶ所で日本語支援教室(下妻教室10名、常総教室15名)を開校した。更に、本年2月に2010年度(4月~3月)の継続事業として第三次「虹の架け橋教室」の公募があり、ABICも再応募した結果、認可42校の中に含まれた。4月から同じく常総教室(20名)、下妻教室(15名、12月につくば市に移転)を開校しており、2011年度までの2年間の継続事業となる予定である。


太田市のブラジル人学校寄贈の
人体模型で学習
ブラジル人子弟への教育支援の充実を(文部科学省の基本方針)

 文部科学省は、昨年12月に中川副大臣が主宰し設置した「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」(ABIC名鏡事務局長も参加)の提案を基に本年5月19日に「定住外国人こども教育等に関する基本方針」を発表した。 その中では、従来ないがしろにされてきた定住外国人の子どもの教育に関し、かなり具体的かつ積極的支援の基本方針が出されている。 1. 「公立学校での日本語指導・適応指導体制」の整備、 2. 「修学後の受け入れ環境整備・進学や就職に向けた支援(定時制・通信制高校など)」の充実、 3. 「虹の架け橋教室」3年間事業終了後の継続を含めた外国人の子どもが「入りやすい公立学校」の実現、 4. 「学校外における学習支援(日本語指導)」の強化、 5. ブラジル人学校等が充実して教育内容を提供できるような「外国人学校における教育体制」の整備(各種学校・準法人化の促進のための認可基準の適正化、日本語教育の支援)など諸施策の策定を打ち出しており早期実現を期待する。従来の実績を踏まえて今後ともABICの活動する場面が更に拡大するものと考える。