活動会員のレポート

埼玉県加須市立北川辺東小学校で国際理解講座を開講

 2010年5月埼玉県加須市立北川辺東小学校から国際理解講座の問合せを受け、同校に池田善弘校長を訪ねた。自然体験活動、フランスの小学校との文化交流、夏休みのサイエンス・スクールなど特色ある教育活動を積極的に取り入れている池田校長の国際理解教育に対する熱い思いを汲み、ABIC会員2名による授業を提案、(財)日本経済教育センターの協力を仰ぐことにした。
 2011年1月19日5年生2クラスの総合的な学習の時間で西村嘉市会員(元トーメン)がブラジル、関口昌甫会員(元日本無線)がインド・中近東の授業を担当した。

 その後、全校朝会で池田校長が西村会員の授業に触れ、「日本人は嘘をつかない」というテーマで講話したことが 2月2日付の東小学校だよりに掲載された。(以下、東小学校だよりから抜粋)
「5年生は、インドとブラジルについて、それぞれの国で活躍された元商社員の方から話を聞きました。話を聞いてとても面白かったし、いろいろなことがわかりとてもよかったです。今日の朝会では、その中で特に印象に残っている話を、ひとつだけ皆さんに紹介したいと思います。それは、ブラジルについての西村さんという方の話です。」
「ブラジルについて西村さんは、こんな話をしていました。『ブラジルでは日本人が世界一尊敬されています。世界にはいろいろな国がありますが、ブラジルほど日本人を尊敬する国はありません。その理由は、日本人は正直で嘘をつかない(とブラジルの人たちが思っている)からです』私はその話を聞いて、なにかとてもうれしくなりました。」
「『ブラジルは貧富の差が激しく治安も悪い。でも日本人が尊敬されているブラジルに一度は住んでみてほしい』と西村さんの言葉からは、『今の日本の人が失ったり忘れてしまった大切なものをブラジルで見つけてほしい。そして東小の子どもたちは人に信頼される人、尊敬される人になってほしい』という願いが感じられました。」

 以下は、講師を務められた西村会員と関口会員から寄せられた講師体験記である。

(国際理解教育担当コーディネーター  川俣かわまた 二郎じろう角井かくい 信行のぶゆき


「ブラジルについて」―ブラジル社会で一番尊敬され、信頼されている日本人―

西村 にしむら 嘉市 かいち (元 トーメン)

 2011年1月19日は寒い朝であった。川崎の自宅から2時間ばかり、埼玉県の北の端、利根川を越えたところに、加須市立北川辺東小学校がある。今年、改築された校舎は明るく、廊下、階段は広く木製で、のびのびした感じが受け取れた。
 池田義弘校長は、朝からの会議があるにもかかわらず、われわれの講座のために会議をキャンセルされ、待っていてくださった。校長先生から、東小学校で行なわれている国際理解教育について熱心な説明があり、4年生はペルーとネパールの人たちから、5年生は各国で活躍した人たちから話を聞き、6年生は直接海外と交流(ネットを通じて)するなど、興味深い授業を行なっておられることが伺えた。

 今回は、5年生2クラス各25名に、教科書、旅行、報道などで知ることができない生活経験、実体験、日本の生活習慣との相違点など(恵まれた日本の中で時として夢や希望をふくらますことのできない子供たちに生きる意味や夢や希望を持つことの大切さを伝えたい)をテーマに講座をしてほしいと依頼があり、私は「ブラジルについて」の授業を担当した。

 ブラジルは、国土も人口も大きな国、水資源が豊かな国、BRICsの中でも最も有望の国、エネルギー、鉱物資源、食料が豊かにある国、世界有数の工業国など説明するアイテムはたくさんあるが、小学校5年生の生徒がまず思い出すのはやはりサッカーで2014年サッカーワールドカップ、また2016年夏季オリンピックが予定されており、スポーツの興味は尽きないものと思われる。
 しかし、忘れてはいけないことは、日本から一番遠い国にもかかわらず、2008年に移民100週年を迎えたことである。1908年に笠戸丸がアフリカ経由ブラジルに渡ってから100年が過ぎ、日系人約150万人が生活するブラジル、日系人はどのように生きてきたのか、どのような生活をしているのか、日系移民のブラジルにおける生活をしっかり見てほしいと考え、都会ではなく、サンパウロ市から西北約550km離れた日系移民が多くいる地方都市のブラジル人の生活、特に日系ブラジル人の生活の話をした。
 都会、日本への出稼ぎ、高等教育を受けるために家を出るなど、町は年寄りと子供の町となっているが、家族の集まりを大事にし、年寄りの日、母の日、こどもの日など日本の風習を守り、日本の食事をとりながら、皆で助け合って生活をしている。現在、ブラジルでは、勤勉さや教育程度の高さから、政界、官界、経済界で活躍する人、医師、弁護士、教員など専門的職業に就いている人が目立つ。
 ブラジル社会において日本人は一番尊敬され、信頼されている。他の友好国ではないことで、これは日系移民が真面目で勤勉実直に仕事をしてきたからである。日本人は正直で嘘をつかないからである。
 ブラジルは、気候が悪い地域もあり、貧富の差が激しく治安が悪い国ではあるが、多民族国家で、人種差別、宗教間の争い、政治抗争などがない国である。しかも日本人が最も尊敬されている友好国である。日本から一番遠い国であるが、旅行などではなく是非とも住んでほしいと、声を大きくして訴えた。

 拙い話を静かに聞いてくれた50名の優しい子供たちの中から、きっとブラジルで住む子供が出て来ると信じている。


「世界大発見」―子供たちに日本の良さと夢と希望を―

関口 せきぐち 昌甫 まさとし (元 日本無線)

 ABICより「世界大発見」というテーマで、北川辺東小学校の生徒たちに生きる意味と夢や希望を持つことの大切さを伝える出前授業をして欲しいとの依頼があった。
 近頃はわが国も深刻な社会問題が多く、将来を考えると安閑としてもいられない状況である。しかしながら、日々の食料や水を得るために苦労している途上国の人々や、戦争や内乱で明日の保障さえない子供たちと比較すると、日本のモノの豊富さ、自然の美しさ、長い歴史と独自の多様な文化、そして何よりも半世紀以上も平和を享受している我々はいかに恵まれた境遇にあることか。いささか元気がないように思われる最近の子供たちに日本の良さを知ってもらい「希望を持って頑張れ!」とエールを送りたい思いでお引受けした。
 その際、まず私の頭をよぎったのは、“日本人は水と安全はタダだと思っている”という学生時代から知っている言葉であった。日本生まれのユダヤ人とされる作家のこの言葉は、自分の長かった海外経験を振り返ると今更ながら至言だと思っており、その真意を国際理解教育の場で訴えることにした。

 レジュメの作成で苦心したのは、小学5年生の国際理解への程度と興味のあり様の把握であった。配布資料として、演題どおり「世界大発見」と名付けた日本とインド、中国、イラク各国の基本的なデータの分りやすい比較表、また飽きないよう“世界三大ナントカ”と俗称する世界の代表的な三つの事物の紹介を小学生向けに準備。“三大ガッカリ”なる観光名所があることを知って思わず苦笑、教材を作りながら改めて自分も学び、発見も多い作業を楽しんだ次第である。

 予め学校で準備していただいた世界地図を使いながら自分が駐在した各国で見聞した「日本人が常識と思っている事は、世界では必ずしも通じない。逆に、外国での当たり前は日本では非常識な事もたくさんあること」など、身近な日常を例に挙げてその違いを語った。はしやフォークを使わずに指でご飯を食べる人たち、貧しさゆえに路上、駅のホーム、果ては、橋の欄干の上で寝る人々の存在、用便の後で紙を使わない国々も多いことなど、異国の習慣や衛生観念の多様性を披露した。
 5年生50人を2クラスに分けて2回の講義をした。生徒たちが興味を持つような小道具としてアラブ風俗の人形、外国の珍しい紙幣、特にインドのいくつもの公用語が印刷されたお札等、聖書やコーランそして毛沢東語録、さらにはインドの神々の細密画や写真などを持参、説明して回覧した。外国へ行った経験のある生徒はわずかだったが、「これが何だか分る?」との問いに挙手して答える生徒も何人かいた。
 二番目のクラスでは、『少年老い易く学成りがたし。一寸の光陰・・』の漢詩を黒板に書き意味を説明した。「時の経つのは速い。だから、後に悔いることがないよう今を大切に」という私の励ましのメッセージが子供たちの心に届いていれば幸いである。
 この世界には救いようもない貧困が存在していること、水と平和の大切さ、さらに日本人として生まれた幸せを充分認識し、感謝するように訴えたかったが、伝えたいことの多さに比べて45分の授業2コマでは十分に意を尽くせずいささか心残りでもあった。

 校長先生を交えての懇談で、生徒の国際理解を深めるべく日頃から尽力されている積極的な姿勢には敬服させられた。明治からの長い伝統を持つ北川辺東小学校に招かれ授業をさせていただいた機会は大変有難く、得がたい経験だったと感謝している。