著者:布施 克彦(ABIC会員、元 三菱商事)著
洋泉社歴史新書
2012年2月8日発行 265頁 定価:820円(税込)
総合商社は、日本固有の業態と言われる。もちろんその出現は近代以降だが、機能そのものは近代以前から存在したはずだ。現在の総合商社の中にも、創業を明治以前に遡るものもあるが、総合商社の起源はその遙か以前の古代にまで辿ることができるのではないか。様々な物資が、原産地を遠く離れた古代の遺跡から発掘されるという考古学的事実がある。それらの物資を、誰がどのような目的で遠隔輸送したのか。古代にも、サプライヤーとカスタマーを結ぶ商社機能が存在したのだと思う。
筆者はその仮説を裏付けるため、この十年ほど国内各地を巡り、古代商社の足跡を追い求めた。その結果、古代にも現代の総合商社を凌ぐかもしれない機能の存在が、ぼんやりとではあるが浮かび上がってきた。そこに古事記、日本書紀、各地の風土記、中国古代王朝の史書などの記述を繋ぎ合せ、さらに足りない部分は元商社マンの経験や勘で肉付けすることで、本書は出来上がった。
日本を中心とする極東の古代史において、交易や物流は今まで空白の部分であった。記録がないのだから仕方がない。本書の記述の多くも、想像の域を出ていない。それでも、今まで歴史の専門家がほぼ無視してきたこの領域に、歴史を大きく動かした要素が潜んでいるのではないかと思う。古代という非情報化社会だからこそ、商社的機能はより強大だったはずである。