活動会員のレポート

茨城県水戸市・大成女子高等学校で国際理解講座を開講
「日本語指導を通じてみたブラジル・アマゾンの日系人社会」

中瀬 なかせ 洋子 ひろこ (元JICA日系社会シニアボランティア)

 今年2月、茨城県水戸市にある大成女子高校にて「日本語指導を通じて見たブラジル・アマゾンの日系人社会」というテーマでお話をした。同じ関東に住んでいながら、水戸を訪れるのは初めてであった。どんな生徒さん達が待っていてくれるのか、わくわくした気持ちで上野駅から常磐線「スーパーひたち」に乗り込んだ。
 学校の体育館では180名余りの女子生徒さん達が迎えてくれた。そういえば私が「いつか国際協力の一端を担う人間になりたい」という夢を抱き始めたのも高校生の頃であった。結婚後、子育てが一段落して日本語教師となり、それから長い年月を経てようやく実現した異文化での体験を、昔の自分にも語りかけるような気持ちで話し始めた。

 私がJICAボランティアとして2年間赴任していた町ベレンは、ブラジル北部を流れるアマゾン川の河口にあり、日本からは飛行機を乗り継いで丸2日かかる。赤道直下の自然環境、そこに生きる人々の暮らしなどを写真で紹介した後、なぜ広大なアマゾン川流域に日本語学校が点在しているのか、どのような人たちが日本語を学んでいるのか、日本人移民の歴史に触れながらお話しした。
 初めてアマゾンに日本人が集団で移住してから80年余り、灼熱の太陽、雨季になると増水する水、マラリアなどの熱帯病などと闘う厳しい開拓生活の中で、人々は子供たちのために学校を作り、教育を授ける大切さを実践してきた。
 祖国を離れていても子供たちには日本にルーツを持つことに誇りをもってもらいたい、日本語を通して日本人の気質を伝え育てたいという親たちの強い思いで80年以上も日本語教育が受け継がれてきたのである。
 他のどの国の移民も敗退した過酷なアマゾンで、苦労の末、唯一日本人が胡椒とジュートの栽培に成功し、ブラジル経済に大きく貢献したこと、彼らの生きる姿勢が、「ジャポネス・ガランチード(信頼できる日本人)」としてブラジル人に高く評価されてきたこと、そして今では日系人だけでなく、多くのブラジル人が日本語を学び、日本文化がブラジル社会に裾野を広げていることなどをお話しした。
 その中で、現在日本語学校で学んでいる日系3世とブラジル人の2人の女子生徒の作文を紹介した。日系人の生徒は「はじめはお母さんに言われていやいや日本語学校に通い始めたが、日本語を学ぶうちに、祖父母が苦労して両親を育ててきたことを知り、自分が日系人であること、日系人なら日本語を学ぶべきだと思うようになった」と書いている。一方、ブラジル人の生徒は「身近にいる日系人を通して自分の国とはとても違う日本の文化や習慣に興味を持った。日本人の強さの歴史を子孫に伝えていきたい」と綴っている。自分のルーツに誇りを持ち、相手の文化に敬意を払うことでお互いの理解が深まるのだと感じる。
 外国で暮らしてみると、日本では当たり前すぎて見過ごしていたことの大切さに気づくことがある。ブラジルに生きる日系人の日本を想う気持ちに触れるにつけ、便利さや経済性ばかり追い求める私たちは何か大事なものを失っていくような気がしてならない。
 異文化に触れることは、日本人としての自分を意識すること、異なるものと交わることは、自分自身を知ることである。その上で、積極的に世界に目を向けてほしいという願いを込めてお話しした。
 最後まで熱心に聴いてくださった生徒さんたち、またこのような機会を与えてくださった大成女子高校の先生方に心より感謝している。