活動会員のレポート

文化庁日本語教育事業「茨城県定住外国人日本語伸長教室」の修了に際し

もり 和重 かずしげ (中南米担当コーディネーター、元 三井物産)


日本語教室授業風景 
大学生を交えての会話

修了証の授与

修了式の挨拶

修了証を手にした子どもたち

 2011年度文化庁の「生活者としての外国人」のための日本語教育事業「茨城県ブラジル人等定住外国人児童日本語伸長教室」を6月から5ヵ月に亘り開設したことは既に本誌32号(2011年11月)にて紹介したが、昨年11月29日に無事修了式を行ったので、本事業の成果と今後の見通しなどについて報告したい。
 リーマン・ショックと3.11東日本大災害の影響で、2008年初頭には32万人に達した在日ブラジル人も現在21万人に減少したと言われているが、定住化が進んでいる状況は変わりない。来日した子どもたち(一世)および1990年以降の日本生まれの定住二世・三世など学齢期にある子どもたち(約2.5万人)が数年後には日本社会に参入するのは間違いなく、十分な教育受けず、また社会適応性を持たない人材の参入は地域社会にとり将来大きな社会リスクになることは予見できる。
 従って、日本語教育と進学・職業教育(職育)の充実により、心身共に健全な青少年を育て社会に送り出すことが地域社会にとり重要な課題であり、地方行政・地域社会・地域ブラジル人社会などと連携して、多文化共有・共生の一環として協働して取り組むことが求められている。ABICも3年に亘り茨城県で実施した「虹の教室」を通じてでき上がったネットワークを通じて、既に地域の行政・地域社会と本件に取り組んでおり、その中の日本語教育充実の一環として、本日本語教育事業を取り上げたものである。

1.「日本語伸長教室」事業内容:
 本事業の目的としては、地域社会に生きる子どもたちがまずは日常生活条会話や読み書きができるようにすると同時に日本語能力検定受験を目指すことにあった。
1) 受講生数:15名(Aクラス8名、Bクラス7名)、修了生数:10名(Aクラス4名、Bクラス6名)

2) 授業時間:各クラス50時間(6月1日~11月29日まで毎週2.5時間×20回)
 日本語教師2名・補助教員1名による授業、ボランティア大学生とのグル-プ会話、日本語の発表会などを通じてのレベルアップなど。

3)教室設置場所:茨城県就労・就学センター(常総市)

2.「日本語伸長教室」の成果と課題:
1)学習目標の達成状況:
 6ヵ月の短期間であったが目標のカリキュラム達成し、復習・テストにより受講生の習熟度を確認できたので、日本語レベルは6ヵ月前に比べ大幅に向上した。定量目標の日本語能力検定試験N5以上の合格者を出すことができたので、子どもたちの日本語学習の意欲が大幅に高まったと言える。
7月日本語能力検定試験受験者 N4→4名 3名合格
12月日本語能力検定試験受験者 N4→2名 N3→4名(未発表) 

2)教室運営の成果:
 地域に日系ブラジル人等の青少年が、ブラジル人学校や日本公立学校で習得した日本語能力向上のために学習する場所がほとんどなかったが、本教室の設置により学習の場ができたので彼等の学習意欲を満たすことができた。将来的にも地域社会の一員として日本・ブラジルの架け橋となる人材に成長する一助となったことは喜ばしい。
 また、日頃ブラジル人社会だけで孤立し地域社会との交流の少ない受講生が、週一でも日本人と接し、日本語学習だけでなく日本社会の生活慣習(文化やニュ-スも含め)触れることにより日本に対する理解が深まったと考える。さらに、テスト問題なども日本語からポルトガル語に翻訳されたものを使うなどの工夫により、より正確な母国語を理解する機会もあった。
 地域との連携については、ブラジル人学校、ブラジル人コミュニティー、地域NPO・ボランティア、県庁、市役所、市教育委員会、公立学などとの交流が深まり、日本語教育の重要性が認識されて本教室の継続の緒ができたかと考える。なお、今回の交流を通じて、市役所の担当職員や公立学校の先生方が、本事業に関わったブラジル人教師のポルトガル語教室に参加するなど多文化共生への新しい動きが出てきている。

3.今後の課題と見通し:
 今回は「日本語伸長教室」を目的としたため、レベルに合わないために受講できなかった人もあったので、今後は能力に応じた「日本語教室」の開設も必要になると考える。茨城就労就学センターも別予算で日本語教室を設置しているので、相互に協力をしながら教室の継続を図りたい。
 さらに、懸案の定住外国人子どもたちに対する支援プロジェクトとして、①日本語教育の充実だけではなく、②社会適応と進学指導、③職業教育(職育)、④母語教育なども含め、県国際課、地域の市役所、教育委員会、商工会、筑波大学、NPO・ボランティア団体などとの協働体制もできつつあり徐々に実現化を図っていきたい。