活動会員のレポート

多摩大学での講義「イスラームの食文化」を終えて

加藤 かとう 貴美恵 きみえ (NPOパレスチナ子どものキャンペーン 会員)


テーブルに並べられた
試食用の料理の数々

試食が進むにつれて
学生の動きも活発になる

特殊な包丁でモロヘイヤ(野菜)
を刻む学生

 2011年6月、ABICが多摩大学グローバルスタディーズ学部で担当されている講座「世界の食文化」において、「『イスラーム世界の食材と料理と食事の仕方』というテーマで話をしてほしい」との打診があった。ABICには夫(中東社会経済史を専攻する研究者)が中東関係のプロジェクトで既にお世話になっており、その関係で、私が中東料理会や試食会でイスラームの女性について話をしているということを耳にされたようだ。厚かましくもお引き受けし、若い学生たちに中東流のおもてなしの雰囲気を感じてもらいながら、テロや戦争ばかりではない、中東での平安な日常や女性の生活についても知ってもらいたいと思った。

 20年前になるが、夫の調査研究先であったエジプトに幼い息子と共に約1年滞在した。古代文明・イスラーム文明・近代文明が混在する社会に驚くとともに、次から次へと興味が湧いた。中でも、カイロ郊外の農村を訪れた時や夫の知人たちのお宅に招かれた時、豊かな食材で何種類もの料理を作って、温かく迎えていただいた感動は一生忘れられないものとなった。それ以降、料理に関心を持ちながら中東10ヵ国を旅した。

 この度の多摩大学での授業(2011年10月21日、2012年5月18日)に向け、かなり緊張しながら授業用PPTとレジュメを準備した。前日には料理を開始した。当日朝、中東の食材、香辛料、料理、テーブルクロスなどをキャリーバッグ一杯に詰め、いざ湘南へ!
 授業は午後の3限と4限。3限でのテーマは、Ⅰ. 中東アラブ世界における食文化の地域的多様性、Ⅱ.イスラーム世界の行事:二大祭りについて(断食と断食明けの祭り・メッカ巡礼と犠牲祭)、Ⅲ.イスラームの食物禁忌とハラール食品、であり、写真を多く用いながら講義した。

 4限の前半はラウンジに移動して試食会。眠そうにしていた学生たちも活き活きと蘇り、てきぱきと準備をこなしてくれた。テーブルにはシリアのテーブルクロスが掛けられ、学生がレンジで温めてくれたラムのオクラシチュー・鶏肉のモロヘイヤスープ・レンズマメの料理が並ぶ。
 他には、香草入りサラダ・ブルグル(挽き割り小麦)・アラブ風パン・ディップ2種。そして絶対欠かせないのはナツメヤシの実(デーツ)。聖書の『生命の樹』として神聖視されている常緑高木で、中東の特産品である。デーツは消化が良く、栄養価が高いとされる。

 25名の学生たちはテーブルを囲んで立ち、ラマダーン(断食月)のクイズに答えながら預言者ムハンマドに倣って先ずはデーツを口にし、そして試食会。その間、食前食後の祈りの言葉、食事のマナー、古来の伝統的な食事風景と現代との違い、などを紹介。女性は家族や親戚など親しい間柄でなければ、公の場では男性と分かれて居る慣習となっていることや、女性たちがヘジャーブ(ベール)などで身を覆うことを、聖典コーランを引用して説明。同時にイスラーム圏でも国や地域によって法の厳しさや個人の信仰心の表し方・意識が違うことを、体験談も交えて話した。

 学生たちは料理を興味深げに味わいながら、互いに感想を交わしていた。一番人気はモロヘイヤスープ。専用の包丁でモロヘイヤ刻みも体験した。香草やラム肉には微妙な反応の学生もいた。教室に戻り、結婚と出産にまつわる食の話を少々。授業最後のリアクションペーパーには、「テロと厳しい戒律ばかりのイメージが、かなり変わった」「女性蔑視の固定観念と違っていた」「ホテルに就職できたら接客に役立てたい」など、着目点も様々で、熱心に書かれた感想が多かった。

 「イスラームの食文化」の授業のため、改めて農産物や家畜の歴史を勉強した。人間が古代より大河と砂漠を特徴とする自然に抱かれながら、大切な人と人との命をつなぎ、更にはつながりを結ぶために一心に食に向き合い、豊かな食文化を育んできたことを学んだ。そして時間と空間を越え、私自身も同じ営みをしていると感じた。
 このようなすばらしい機会を下さったABICの皆様、そして、他の地域や食材を担当された7名の講師の方々に、心から感謝申し上げたい。