活動会員のレポート

「日本の食文化」を学ぶ

  猪狩 いがり 眞弓 まゆみ (大学講座担当コーディネーター、元 三井物産)


2013年春学期多摩大学で「日本の食文化」を講義

2013年10月10日「日本料理文化博覧会」会場で

 今般、富士山の世界文化遺産登録に続いて「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ世界無形文化遺産として登録される見込みとなった。すでに登録されている食の分野ではフランスの美食術、地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキ料理があり、それに続く今回の日本の登録となる。2012年3月に申請され、登録推進活動が行われていたが、この動きは海外での日本食ブームを受けたクールジャパン戦略の一環でもある。
 私はABIC会員の方から紹介を受け、農林水産省食料産業局において、2012年4月から日本の食文化推進事業外部審査員としての活動を行っている。審査員の仕事とは、農林水産省の公募事業に応札してきた事業者の提案内容を書類審査し、審査会でプレゼンを聞き、質疑応答の上評価を行って1社を決定するものである。2013年度は特に「日本の食を広げるプロジェクト事業」が中心で、具体的には「海外における日本食・食文化普及人材の育成事業」として、海外の料理学校・食関連事業者・流通業者・教育機関・日本料理コンペ・シンポジウム開催・日本酒伝道師育成・功労者表彰などの事業審査に携わっている。
 この審査員としての採用理由は学歴教育歴の他、三井物産食料部門における30年間の在籍実績が重視されたと聞く。「知見を生かして」という期待にどう応えるべきか。自信のなさからの学びの出発だった。まずは「和食」を学ぼうと、関連書籍等情報収集、毎月の会席料理教室、味の素食の文化センター主催セミナーや各種シンポジウム等への参加、そして「和食検定」への挑戦を計画した。和食検定テストは1級合格率9.3%という難関だった。受験会場ではおそらく私が最年長だったが、退職後10年に及ぶ大学生活で体得した学習癖が奏功し、幸いうまく突破できた。身近な食に関する学びは大変興味深く楽しいものである。直近に参加した「日本の料理文化博覧会」というシンポジウムは、まさにユネスコ世界無形文化遺産登録に向けてのデモンストレーション的な催しであり、大いに盛り上がった。
 これらの活動をバネに、大学でも若い世代に日本の食文化を伝えたいと考えた。ABICが2009年から提供している多摩大学「世界の食文化」講座は、海外駐在経験豊富な素晴らしい会員による講師陣によって好評を博している。しかし、学生からのアンケートで、自国の食文化を知りたいという声が寄せられていた。このことに自ら応えたいというものである。実際に今回担当してみて、学生たちが知らないことが多々あることに驚かされた。授業で入手したリアクションレポートでは、イタリアンや中華などにはよく行くが、和食専門店はあるのかとか、自分の国の食文化なのに一度も学ぶ機会がなかったということが書かれていた。現に小学生の「食育」は盛んだが、大学では考古学あるいは栄養学の一部として扱われる程度で、食文化という研究領域自体まだそれほど確立されていない。だが、私自身「日本の食文化」研究をひも解いてみて初めて、大陸からの文化を受容し、自国の文化としてきた日本の食文化史の重みを感じている。今後も農林水産省の日本の食文化推進事業と関わりながら、大学での講座についてもABICからさらに拡大発展させていきたいと考えている。