江東区立第五大島小学校での授業風景
「10月に都内小学校5年生の国際理解講座で環境問題に関して分かりやすく教えてほしい」との話を頂いたのは、私がABIC会員登録をした直後の5月のこと。身に余る光栄であったが、私は戸惑った。
私の知る限り、環境問題とは、ごみ問題や局地的な公害のように一部地域内で発生するものから、地球温暖化・オゾン層破壊・酸性雨のように地球規模のものまで多岐にわたり、因果関係や有効な対策が十分に把握されていないものが多い。また今回対象となる5年生は環境問題を理解する上でベースとなるカリキュラムを受けていない学年なので、なおさら難しい。
私は現在、東京都港区より環境学習事業の委託を受けるNPO法人の副代表を務めており、年間延べ数千人の区立保育園・児童館の子どもたちを東京都あきる野市の里山に受け入れて、間伐・植樹・炭焼きなどの森林体験や農業体験を実施している。私がこの仕事に関わったのは、それまで勤めていた環境系コンサルティング会社を辞めて、日本各地の地域資源と都市部の消費地をつなぐ「地域プロデューサー」として独立した3年前。以降、NPOの運営をしながら、農林業従事者の高齢化や産業の衰退により荒廃する森林や農地と、都心の消費地をつなげるべく活動している。
私は環境問題を体系的な学問として教えられるような学識はないが、普段子どもたちと自然の中で接している経験から、覚えさせるための講義ではなく環境問題に関心を持つ「キッカケ」が大切だと考えた。そのため、講義では2つのことを工夫した。
1つは、プロジェクターを使って視覚的な見せ方にこだわった。ありがたいことにウェブ上には教材として利用できるフリー素材がたくさんある。例えば『Flood Maps』というサイトでは、Googleマップと連動して海面が上昇するとどのように浸水するかをシミュレートできる。地球温暖化が進み、近い将来海面が上昇したら自分たちが住む墨東地区はどうなるか、一緒にシミュレートしてみると地球規模の問題が身近な生活に大きく影響するということが分かり、彼らの関心の度合いが違ってきた。
2つ目は、一方的な講義ではなく、自主的に考えて意見を言い合うインタラクティブなスタイルを心掛けた。1クラス30人ほどの子どもたちを5人ずつの班に分けて、一つ一つの問題をグループで話し合い発表させた。
結果的に、私が予想していた理解度をはるかに超え、彼らは皆、私の説明を熱心に聞き、積極的に挙手をして発言した。うれしい誤算であった。講義を終えた後、彼らは総出で私を校門まで見送ってくれた。その無邪気な笑顔が忘れられない。
現代の子どもたちがさまざまな情報手段から入手する情報量の膨大さと内容の多様さは私の世代とは格段に違っている。その情報を「生きた」ものにできるかは、経験者である大人の役割だ。これからも機会があればお役に立ちたいと思う。
最後に、この貴重な機会を与えてくださったABICに心からお礼を申し上げたい。