栗田
政彦
共著(ABIC会員、元 栗田工業、財団法人日伯経済文化協会(ANBEC)専務理事、ABIC虹の架け橋教室事業共同代表)
公益財団法人渋沢栄一記念財団研究部編
A5判・上製・270頁 定価3,800円+税
移民送出は戦争と共に日本の近代化過程での大事な歴史である。戦前期の日本人ブラジル移民史への研究は多角的、学際的に拡大したが、日本の近代化や産業化を担ってきた実業家たちの移住事業への貢献については、あまり詳しく研究されてこなかったことを共通認識する者たちが、移民100周年(08年)にシンポジウムを行うと共にその研究を一冊にした。渋沢栄一、岩崎久彌、武藤山治、平生 釟三郎 の4人の実業家を取り上げた。彼らは単に実業界で一流の働きをしただけではなく、近代化の矛盾に悩む国家の諸問題にも積極的に関わった。その貢献事例のひとつが、ブラジル拓殖事業に人口過剰や経済問題の解決を求め積極的に関わったことである。本書では、各著者が事例を通じて、彼らの移民事業に関する考え方および事業推進について、また国策や外交に関する考えを検証することで、今日の実業家の公益への積極的取り組みを喚起する。
私は、第4章で「平生 釟三郎 とブラジル」を執筆した。4人のなかで、平生はブラジルに渡航した唯一の実業家で、しかも2度にわたる。東京海上保険㈱の専務取締役をはじめ、川崎造船㈱社長、日本製鉄㈱社長など多くの企業経営に携わったサラリーマン経営者の平生は、昭和初期にブラジル拓殖事業大改革による移住者の生活安定ならびに経済使節団を率いて2年間で当時の日伯貿易額を20倍に激増させ、さらには国家的経済文化交流の礎を築いた。今日の民間外交推進のためのヒントも多い。