「三期会」で訪れた世田谷の九品仏・浄真寺で
筆者(前列中央)
私は2006年10月、計4回通算25年にわたるブラジル駐在を終えて日本に帰国した。帰国当時、在日ブラジル人は30万人を超え、日本語の理解不足・不十分な習得により、その子弟の教育が問題になっていた。それで、在日ブラジル人に日本語を教えられれば、それはブラジル・ブラジル人へのある種の恩返しになると考えた。
「国際社会貢献センター」(ABIC)に日本語教師養成講座があることを知り、2007年10月より2008年3月まで半年間の講習を受けた。受講者は計8人(男性6人、女性2人)で全員無事卒業した。しかし、受講を終えてみると、私の周りにはブラジル人相手の授業の機会はなく、私の居住している街の外国人支援グループが、社会貢献の一環として行っている近隣外国人向けの日本語教室があり、その授業の一部を受け持った。この授業は初級から上級までの週2回、対象者は中国人、韓国人、インド人、その他ベトナム人、インドネシア人、オーストラリア人等で日本人男性と結婚した主婦もいる。また、インド人やインドネシア人は日本の提携先企業への研修生として派遣されているケースもある。また、卒業してから約1年後、お台場にある国際交流館の留学生およびその家族への日本語授業を担当する機会(週1回)を頂き、現在も続けている。
2008年3月に卒業した8人は、現在も「三期会」(養成講座の三期に当たる)という名前で、春・秋の年2回懇親を目的とした交流を続けている。幹事を輪番制として、毎回昼食会と簡単な訪問先を選定する。今までに、初詣を兼ねた鎌倉八幡宮参拝、等々力渓谷散策、柴又帝釈天、キリンビール工場見学等を実施している。
三期生の卒業後の主な活動を述べてみたい。
・I氏(総合商社OB、中国駐在経験)は、ABICの紹介で東京都下T市の教育センターから、「現地語(中国語)で日本語を指導する」、「週2回、指導回数30回、期間約4ヵ月」という条件で、市立の小・中学校に派遣された。その経験から、①小学2年生は、五十音・発音等の基礎が主となる。②小学高学年の場合は、国語の授業で小説などが出てくるので、日本の文化の説明が必要となってくる。③中学生になると、学校生活と授業に必要とされる日本語の
語彙
が多くなるので、指導は非常に難しくなる。同氏の経験では、学習者の興味や得意科目を見つけて、そこを突破口に指導していけば、よりスムーズな指導が期待でき、本人の理解度も向上する、との考えである。
・Mさん(主婦)日本語教師のボランティア活動をする機会はいまだないが、教師養成講座で学んだことは仕事に大変役に立ったという。職場で中国人に仕事の引き継ぎをした際、①発音ははっきり明瞭にすること。②難しい言葉は使わないこと。③日本人が当たり前と思っていることを相手もそうだとは決して思わないこと、等ABICの講座で学んだことを思い出しながら指導し、引き継ぎが円滑にでき、相手からも大変感謝されたという。身近に外国人と接する機会が増えている昨今、ABICの講座で学んだことはMさんにとって大切なスキルになっているという。
・U氏(総合商社OB、海外駐在経験)養成講座卒業後、現在の神奈川県Y市の国際交流協会勤務に至るまでの5年強の期間、多くの外国人に初級から中級までの日本語を教える機会があった。お台場の国際交流館では3年ほど、初級から中級まで教えた。その間、横浜市内の居住地域で、ボランティアとして、フィリピン人や米国人にもレッスンをした。特に、米国人の場合は、年配者で目も不自由だったので、ジェスチャーや絵、そして字を教えずに、日本語を教えるということがいかに大変か、苦労もしたが大変勉強にもなったという。現在は交流協会の仕事をしているが、退任後はまた直接日本語を教える活動をしたいという。
・T氏(総合商社OB、海外駐在経験)養成講座受講後は、特に日本語を直接教える機会はなかった。しかし、ベトナム、台湾で仕事をする機会があり、通訳以外に、現地採用の若いスタッフに業務内容を説明する役割を担当。現地スタッフは、日本語はかなり堪能だが、さらに日本語の表現力の向上を図るに当たっては、要点をしっかり押さえ、メリハリをつけて表現すること。同時に、日本語の礼儀正しさや
婉曲
表現は、相手とのスムーズなコミュニケーションに有益であることなど、講座で学んだことは大変役に立ったという。また、相手との相互理解には、講座で学んだ日本の文化や伝統・習慣などへの関心を深めることも重要と考えるという。
・M氏(総合商社OB、海外駐在経験)養成講座卒業後、しばらく日本語を教える機会がなかったが、ある縁で、東京大学国際センターで、同大学院に留学のため来日したばかりの学生に週1回2時間の日本語を4年間教えた。帰国の際、記念に製本された英文の卒業論文をもらった。その前文にM氏のことが一言触れられていたことがうれしく、印象に残っているという。
・Y氏(総合商社OB、海外駐在経験)ABIC講座修了後、日本語を教える機会はあまりなかったが、調布市の国際交流協会の日本語講座で1年間、ネパールから来日した中年男性3人に日常会話主体に授業をした。彼らはネパール料理店の従業員で、日常会話ができれば十分ということだった。
われわれ三期生は、故吉田裕先生から有益なたくさんのことを学んだ。あらためて感謝の気持ちを表したいと思います。
世界と日本のグローバル化が進む今、言語、宗教、習慣等が異なる人々との共生は避けて通れない。また、日本の少子化が進む中で、外国人が日本語を学ぶ機会とニーズはますます増大する。異文化共生には、お互いに理解し合うことが不可欠であり、そのためには言葉が重要であることは論をまたない。ABICには異文化を体験した多くの会員がいる。日本社会しか知らないで、日本語で日本語を教える教師では、対応が難しい場面も多くあろう。これからもABIC実践日本語教師へのニーズはますます増大すると思われる。また、さらに若い活動会員が日本語教師として活躍・貢献することを期待したい。