活動会員のレポート

日本センターロシアセミナーを終えて

  谷口 たにぐち 武彦 たけひこ (元 日産自動車)


オレンブルク大学日本情報センターにて
(2014年9月18日)
左からオレガ通訳、谷口、ドカチェンコ教授、
佐竹日本センターディレクター

カリーニングラードの受講生
(2014年9月21日)
前列右から3人目が谷口、
その右隣が松原日本センター所長

 「ロシアで『人材育成』というテーマのセミナーをお願いできないか」というABIC事務局からの依頼は、現役時代60ヵ国以上の訪問歴を持つ自分としても、ロシアとの接点は今まで一切なく、また今後もないと確信していただけに、青天のへきれきとでもいえる事件であった。
 本要請は、将来ロシア経済を担い、日露経済関係の分野で活躍する人材を育成するために、日本政府がロシア6ヵ所に設置した日本センターのうち、サンクトペテルブルク日本センターが企画・主催する講座へのABICの取り組みに基づくものである。
 テーマ自体は私自身が現役引退後活動している内容とほぼ類似しているとはいえ、ロシア語は全くダメ、ことごとくロシア音痴である自分が、現地に行って何ができるか。そういう不安を消し去り、背中を後押ししたのが、「言葉は日本語で結構。場所はサンクトペテルブルクです」という、事務局からの一言。という試行錯誤の経緯を踏まえ、何らかのお役に立つことを祈りつつ、ロシアに向かう機中の人となった。
 ロシアにおいては近年、資源立国から産業立国への構造転換を図る動きが加速化しており、その一環として、第2次大戦後目覚ましい産業化を遂げた日本に学ぶ、という経済界の意向があるということである。当地日本センターは、主に日本の企業文化を紹介しつつ、ロシアの経済文化の発展をサポートしているわけだが、今回は、企業の人材育成という切り口で支援するセミナーであった。
 セミナーの一番のポイントとして、グローバル社会の中で日本企業の強みは「ものづくり」であると一般的には理解されているが、それと共に「ひとづくり」が極めて重要であること、そしてそれが日本企業の世界における躍進の大きな秘訣ひけつである、ということを強調し、それに沿ったテキストを作成し講義した。
 受講者は若手企業人、大学関係者、学生であり、セミナー会場はサンクトペテルブルクの他、ウラル山脈の麓にある小都市オレンブルク、そしてロシアの飛び地、バルト海に面したカリーニングラードの3ヵ所であった。失礼ながら後者2都市は、地図を見るまでその存在すら知らなかった。ロシアでの滞在は1ヵ所2日の6日間、といっても1日目がセミナー、2日目が移動という強行日程であった。
 ロシアでのセミナーを担当させていただき、印象に残った点を幾つか述べたい。
 受講生の中で、企業および大学関係者には結構年配の方が多く、シニアの方の学習意欲を強く感じた。一方、そのような受講生は、日本産業の躍進を信じられないという観点からの多くの質問があった。おそらく、ご自分の若い時代には想像もできなかった事象なのであろう。
 会場の一つであるオレンブルクでは、わずか人口30万人程度の地方都市にもかかわらず、ドカシェンコ教授が率いる日本情報センターが同市大学にあり、専任スタッフ2人と共に日本から派遣の日本語講師も抱え、日本研究に取り組んでいる。技術分野において、同大学は広島大学と提携している。
 最後に、ロシアに対する自身の偏見と誤解について。現地到着前は、ロシアの航空国内線に対して大変不安を抱いていたのが実情。現地で目に付いた限り、エアバスとボーイングであった。
 7日目、セミナーが受講した方々に役立ったことを念じつつ、機内の人となった。再びロシアの地を踏むのはいつの日か。