SABESP(サンパウロ州水道公社)
サントス地区下水網のパネル説明
サンパウロ市固形廃棄物センターの風景
左から筆者、ICETT中丸さん、
パトリシア州環境長官、オカノ州環境公社総裁
かつて世界最大の累積対外債務を抱え、年間インフレ率1,000%以上を「誇った」ブラジルも、1994年に開始されたレアルプランによって、経済正常化の道を歩み始め、今や経済規模では世界7位となった。1人当たりのGDPも1980年代の2,000ドル台が、現在では13,000ドルとなり、発展途上国から中進国に「昇格」した。与党がPSDB(社会民主党)からPT(労働者党)へ変わったものの、社会政策を重視する「社会自由主義」といわれるマクロ政策は一貫しており、この結果、下層から中産層への社会上昇が具現化し、国内市場が拡大してきた。分かりやすい例を挙げれば、乗用車販売市場としては世界第4位だ。と、マクロ経済数値だけみれば、輝かしい成果を上げてきたといえるが、社会インフラ不備や環境汚染に目を向ければ、発展途上国どころか「後進国」と言わざるを得ず、この格差、アンバランスがブラジル・コストといわれる社会的負荷につながっていることも、冷厳なる現実である。
ところで、かつての四大公害の一角をなした、四日市での環境汚染という経験を踏まえて1990年に設立されたICETT(公益財団法人 国際環境技術移転センター)は、三重県で開発・蓄積された環境技術を発展途上国向けに移転する業績を着実に上げてきているが、各国からの技術研修生の受け入れは過去20年間で、その数2,000人以上、うちブラジルからは150余人となっている。すなわち、ブラジルの環境技術向上にソフト面から貢献してきた。
一方、1973年以降、三重県はサンパウロ州と姉妹県・州協定を結んでおり、40周年となった2013年8月、鈴木県知事とアルキミン州知事によってMOU(意思協定)が調印され、商工業分野や観光分野ばかりか、環境分野でも両県(州)間で協力することが約定されている。
こうした実績と歴史的背景を受けて、今回のFS「ブラジルにおける環境技術海外展開可能性調査」が策定されたわけだが、調査目的は、メイドイン三重県の環境技術のブラジル進出の可能性追求である。すなわち、環境分野で活躍する、三重県民間企業のブラジル進出を後押しする策を具体化せよということで、ICETTの支援活動に以前から協力しているABICの紹介を受け、延べ21年間のブラジル駐在経験を持つ筆者が総括コーディネーターを委嘱され、ICETTの中丸プロジェクト・オフィサーに同行してサンパウロを訪れた。
2月上旬の、わずか1週間弱という時間的制約にもかかわらず、総領事館、JICA、JETRO、州工業連盟や州政府環境長官、州環境公社総裁らと情報交換を行い、州水道公社のサントス地区下水処理場やサンパウロ市廃棄物選別解体センターを視察・見学することもできたのは、一定の成果といえる。確かに、サンパウロ州に限定しても、水汚染、土壌汚染などさまざまな分野において環境技術に対するニーズはあることは確認できた。とはいえ、三重県の民間企業がブラジルに進出するには、経済的な合理性が裏付けされなければならず、このハードルは決して低くはない、というのが正直な実感である。
マクロの総論賛成なるも、ミクロの各論の具体化、となるとその解は簡単ではない、というのが今回出張同行した筆者の偽らざる思いである。
Last but not least、今回も多くの魅力的なブラジル女性に出会った。サンパウロ大学法学部教授として教壇に立ちつつ(専門は民法と環境法)、州環境長官として自然体で活躍中のパトリシア女史を筆頭に、FIESP(サンパウロ州工業連盟)やSABESP(サンパウロ州水道公社)の中堅幹部として働く女性たちとも、エレベーターを待つ間の限られた時間ではあったが、私的会話を楽しむことができた。今回の出張で、筆者には一番記憶の残ったシーンである。