活動会員のレポート

日本語教師養成講座を振り返って

  日本語教師養成講座講師 鈴木 すずき 松子 まつこ


講座風景

第17期日本語教師養成講座修了式

 「梯子の頂上に登る勇気は貴い。さらにそこから降りてきて再び登り返す勇気を持つ者はさらに貴い。大抵は、一度登ればそれで安心してしまふ。そこで腰を据えてしまふ者が多い。登り得る勇気を持つ者よりもさらに降り得る勇気を持つ者は、真に強い力の把持者である。」これは、速水御舟の言葉である。私は、退職後さらなる挑戦をなさる皆さんに敬意を表してこの言葉を贈り、お互いが心寄せ合って真っ白なキャンバスにきれいな絵を描いていただくべく、5年半にわたり、本講座の講師を務めてまいったが、個人的都合により、第17期をもって終わらせていただくことになった。
 本講座の第7期から第17期までの11期で80人の修了生を見送り、今皆さんがさまざまな場所でさまざまな形で活躍をなさっているのを大変うれしく感じている。
 「学ぶことは素直さにあり、ひいては教えることも素直さにあり」をモットーに、徹底した基礎の確立と柔軟性を持った思考力で物事を展開する、かついかに難しいことを易しく教授するかということが私の基本理念である。その理念に基づいてこの5年半ご指導申し上げてきた。
 日本語教師とは、学習者にゆっくりと、分かりやすい説明で、相手の反応を感じて相手の立場になって会話をする、習いたい気分にさせること。講じるのではなく、コミュニケーションの手助けになるような授業をすることである、という考えから徹底して基礎の重要性を訴えてきた。
 実践の後半の授業では、自分で教材を作成しそれを使ってトライアルをしてもらっていた。「昨夜は、先生の顔が浮かび、また『却下』と言われるのではないかと思い、よく眠れませんでした」と言いながらも、時には大声で笑いお互いが切磋琢磨して頑張っておられる皆さんの姿が懐かしく思い出される。
 「鬼のように厳しく、優しい」と言われ、自分自身も自覚するところだが、それも心を鬼にしてひたすら皆さんの上達を願い、必死にやってきた。修了して独り立ちしたときに、講座で学んだことの重要性を痛感するとの言葉を頂くとほっとする。日本語教師として歩み始めた皆さんには、自分が楽しみながら学習者一人一人に対峙して笑いのある教室をつくってほしい旨を伝えている。
 一方、組織に文化が根付くように、クラスごとに独自の文化が形成される。11期それぞれに色があり、和ができており、半分以上の期において、定期的に食事会をしている。会うたびに談論風発、その時々の状況を語り合い、健康に留意して次に会う約束を交わしている。講座で結ばれた縁がいつまでも続くことを願っている。
 これからますます日本語教師の要請が高まる状況において、ABICのご尽力で末永くこの養成講座が続いていきますことを心から祈念します。そして、すてきなご縁を頂き、これまでご支援いただいたことに深く感謝申し上げます。