伊豆湯ヶ島温泉白壁荘でのゼミ合宿
ゼミの講義やプレゼンテーションを行う教室
トヨタ西東京カローラ本社の整備工場見学
2012年から一橋大学商学研究科経営学修士コース(HMBA)で、海外からの留学生に日本の産業と文化について教えるゼミを担当している。
このHMBAコースは2000年に開設され、社会人教育、高度職業人教育のためにスタートした。開設当初から外国人留学生も入学していたが、2012年度から海外の入学希望者の要望を背景として留学生プログラムが開設された。これは日本での滞在経験が短い(もしくはない)海外の学生を対象として、①別枠の入試「外国人特別選考」を行い、②1年次前半に日本語とこのゼミ「日本の産業文化」で集中教育を受ける、③1年次後半からは他の一般学生と合流して、HMBAとしての本格的な学習を進めている。
入学者は一流大学卒業の22歳から32歳までで、実務経験を有する学生が半数以上、2015年度は20人である。今までの留学生の出身国籍は中国・台湾・韓国・ベトナム・タイ・モンゴルで、男女比率は約7割が女性となっている。日本語はN1合格していることが最低の条件で、入学後の半年の集中教育で日本語は一般学生とまったく遜色ないレベルに例年達している。
このゼミは次の4部で構成され、講義されている。
1)日本型経営の特色について
2)サービス産業(総合商社をケースとして)
3)製造業(自動車・建設機械産業をケースとして)
4) 日本の企業と社会(文化面では日本旅館の経営をケースとして)
そしてこのゼミの特色は、月1回校外学習として、講義内容と関連する企業を訪問していることである。
訪問先は4月に乳飲料製造会社、5月にテレビショッピング運営会社のスタジオとコールセンター、6月は伊豆湯ヶ島温泉の日本旅館でゼミ合宿、7月は自動車販売店(一般車と高級車チャンネル)となっている。事前にゼミ生には訪問先の会社の調査・学習をさせ、担当グループがその結果のプレゼンテーションを行う。また事前にゼミ生の質問を訪問先に提出して、それを反映した説明や回答を受けて訪問の効果を挙げている。日本旅館では女将から「おもてなしと旅館経営」についての講演や、抹茶のお手前、浴衣・振袖の着方なども学んでいる。学生には貴重な経験ができると大変好評だ。
HMBAに入学してくる学生は、キャリア向上志向が非常に強い。一橋大学は少人数のゼミ教育が伝統的で、講師とゼミ生の全人格的な交流が特徴である。商社出身の筆者に加えゲストスピーカーとして、銀行・建設機械会社出身者が専門領域の講義をしている。このゼミの構成や運営は、留学生の理論と現実を学びたいという要望に応えるように作られ、就活やキャリアデベロップメントにも役立っている。グローバル人材教育の一つのモデルと考えられる。
なお一橋大学の国際教育センターでは、英語開講で「グローバル自動車産業論」や「日本型経営論」も学部生対象にABIC講師が担当している。