活動会員のレポート

世界に広がる生け花の輪

  鍬形 くわがた いさお (留学生支援担当コーディネーター、元 伊藤忠商事)


月例華道教室の参加者

国際交流フェスティバル華道体験教室
小山田講師と和装の米国人アシスタント

国際交流フェスティバル華道体験教室の鴨志田講師

1.華道教室のあゆみ
 ABICの留学生支援活動の一つとしての華道教室につき、経緯と最近の状況をご報告申し上げたい。同教室は2002年に第1回の教室を開き、草月流の中西講師に指導いただき、その後古流の藤原講師とご息女に教授いただいた。2008年に新たに小原流本部に講師派遣をお願いし、小山田講師と鴨志田講師を派遣いただき現在に至っている。なおこの間のコーディネーターは山田および厚浦が尽力した

2.教室で学ぶこと
 華道には流派により生け方の約束事があり、まずその習得から始まる。小原流の場合は水盤と剣山を使い(草花を)「たてるかたち」に生けることから始める。芯としてたてる枝は長さや角度が決まっている。その後「かたむけるかたち」や「まわるかたち」などいろいろな型を習得する。しかしただ決められた型をまねるだけではない。最も初歩的な段階であっても「決められた手法」と同時に「生ける人の自由で闊達かったつな発想や審美眼の発揮」が必要とされる。伝統的な型と自由で時には奔放なシュルレアリスム的フォルムの融合がこの派の面白さだと思われる。われわれがホテルの玄関で見かける西洋式の花の展示は、空間を残さず花を容器に埋め込んであふれるばかりの豪華さに満ちており、バロックやロココ建築のようである。またその花の集合体の中には主役となる花があり周りは主役の引き立て役となっている。一方生け花は右と左への相似形の展開がなく空間が多いので一見「もの寂しい」印象を受ける。多くの流派において「左右対称ではないこと」と「余分な要素をそぎ落とし本質のみを残すこと」すなわち「引き算の美」を審美の基準に置いているものと思われる。空間を埋め尽くし征服するのではなく、空間も大事な美の要素と見なし、一本の花や小枝も大事な主役であるという審美感こそが生け花、ひいては「自然や他人との共生」を願う日本人の考えではないかと思える。他人を圧倒する主張や表現は時には他人の領域にまで入り込むが、より静的で自省的な日本人特有の思想の発露を、外国の人たちが生け花の中に垣間見てもらいたいと思う。
 教室では講師の厚意により、年に数回華道展示会に生徒を招待している。これは他流派の生け方を含め幅広く生け花を理解してほしいとの願いからである。

3.許状(Certificates)が取得できること
 ABICの華道教室では継続的に参加し単位を修めた受講者は初等科の許状を取得している。2015年末までに許状を取得した生徒は14人で国籍は8ヵ国に及んでいる。

4.生け花の輪を作ろう
 2002年の第1回教室から2015年12月までに月例教室に参加した生徒数は1,150人となり、毎年開催される東京国際交流館主催の国際交流フェスティバルでは、茶道、書道と共に開く体験教室の華道も年々増加し2015年は125人となった。また2015年6月より兵庫国際交流会館でもABICの華道教室を開始し、東京と同じく小原流から細坪講師を派遣していただいている。
  最近、かつて交流館に滞在し許状を取得した受講生から、「南国なので花はたくさん自生していて材料費はかからない」「菊や桔梗が手に入らない」等の便りをもらっている。ABICの華道教室を体験した留学生たちが故国に戻り、日本で学んだ生け花を近隣の人たちに伝えてくれている。まだ数は限られているが、これからも生け花の種を世界の各地でまいてくれる人が増え、やがて生け花の輪ができることを願っている。