元商社マンの血が騒ぐ海外単身赴任
私は2007-10年に双日から日本貿易会に出向し、『日本貿易会月報』編集長としてABIC会員の皆さまにも寄稿をお願いしていた。それが今回、逆に寄稿する立場となり、時の流れを感じている。
私は現役中にABIC会員になり、語学ボランティアを経験した。2012年に双日を卒業し、続く2年半は日本在外企業協会(日外協)で『月刊グローバル経営』編集長として充実した毎日を送っていた。ただ唯一の不満は、海外での活躍機会がないことだった。
責任重大な名鏡さんの一言
2014年6月下旬、ABICの人材募集メールがふと目に留まった。「JSTインド事務所開設」の人材募集であり、なぜか妙に気になった。そこで、日本貿易会出向時代に席を並べたABICの名鏡さんに、「日外協を卒業したら、また海外に行きたいのでよろしく」とメールしたところ、「予行演習のつもりで受けてみたら」との軽いノリ。その一言が、とうに還暦を過ぎた私の運命を変えてしまった。
8月初めに軽い気持ちで面接を受けたところ、工学部卒(理系)の学歴と商社マンの海外経験を相場以上に高く評価され、即採用が決まって大慌て。当然、後任の編集長は急には見つからず、私の前任者にカムバックを頼むウルトラCでめでたく円満退職。同年10月にJSTに転職した。
転職後からすぐにインドに何度も足を運び、事務所設立許可申請やオフィス、住宅、従業員探しに奔走。そして2015年12月に正式に事務所を無事開設した。
インドで展開するJST事業
現在の業務は大きく3つある。1)インド研究者とのネットワーク構築。世界で一番入学するのが困難といわれるインド工科大学(IIT)など、全国のトップ大学、研究機関を片っ端から訪問し名刺交換することから始まる。2)若手理系人材の交流促進。「さくらサイエンスプラン」(SSP)というプログラムで、2016年度は500人の優秀なインド人(15-40歳)を日本に1−3週間招聘する。当然、JSTだけでは引き受けられない。アジア35ヵ国から4,500人も招聘するからだ。そこで日本の大学、研究機関、企業などにも受け手になってもらい、費用をJSTが負担する。いずれ世界で活躍する優秀なインド人とSSPで知り合うことができるので、受け手側にとっても貴重な機会と確信している。3)両国研究者による共同研究の推進。インド科学技術省と協議して研究分野を設定し両国で公募を実施。採択された日本側の研究者にJSTが研究費を提供する。現在、インドが得意とするICT(Internet Communication Technology)分野で共同研究を立ち上げ中で、国際共同研究拠点(ハブ)の設立を目指している。
デリー大学 Vice Chancellor訪問
インド科学技術省(DST)による
SSP壮行会の様子
(前列右から2人目が筆者)
全国発明研究コンテストで
科学技術大臣から表彰される優秀者
(彼らがSSPで日本に招聘される)
やりがいのある多忙な日々
インドの税法、会社法、労務規則などは複雑怪奇で頻繁に変わる。さらに、外国人への税金(個人・法人税等)徴収は徹底しており、前納が前提で少しでも滞納すると延滞金利が課される。収益事業をしないリエゾンオフィスでも、決算報告、会計監査の義務がある。当事務所は私と現地人職員1名の小さなものだが、煩雑な管理業務や頻繁な出張もあり、自称猛烈商社マンだった20代の頃よりも勤務時間は長い(実は、単に能率と集中力が落ちたのだろうが)。
ただ、この歳でも現場最前線で伸び伸びと仕事ができる充実感は何物にも替え難く、ABICに足を向けては眠れない。