2016年岡崎市親子のワークショップ
2016年越前市親子のワークショップ
2016年越前市ワークショップ参加者集合写真
2005年から三井物産の在日ブラジル人子どもへの支援活動(①在日ブラジル人学校への機材・教材支援、奨学金供与、②副教材開発支援、③子どもへの支援活動をするNPO・ボランティア団体への協力)に関する業務委託を受け、現在も継続している。今回は、その中で2009年から実施している通称「カエルプロジェクト日本」について紹介したい。
「カエルプロジェクト」は、日本からブラジルに帰国した日系ブラジル人の子どもが急激な環境の変化やポルトガル語の能力不足、日本での学習の遅れから、心理面の悩みを抱えて不登校・不就学になるケースが増えたため、1990年代後半からサンパウロで中川郷子博士(臨床心理)が中心となり、専門家(臨床心理、遊戯・教育心理など)がサンパウロ市政府の協力を得て行っている心理相談、社会順応支援、教育指導、就学支援活動を指している。2008年にブラジル三井物産が社会貢献基金を設置したが、その最初の助成を「カエルプロジェクト」に対して行っている。
1990年に日本の入管法改正以降、多数の日系ブラジル人がデカセギのため来日し、家族を含め2003年には27万人、2008年には32万人に達した。2008年のリーマン・ショックで急きょ多数のブラジル人が帰国したが、子どもたちが準備不足のまま帰国し、さらに多くの不登校・不就学になる事例が出たために、中川先生から三井物産に対応策について相談があった。その結果、帰国前に保護者や就学支援関係者にブラジル側の事情や事前準備の手続き、子どもへの心の準備対策などについて説明する機会を設けることになった。2009年から毎年10月の約1ヵ月間、中川先生に来日してもらい、十数ヵ所のブラジル人集住都市で「カエルセミナー日本」を開催している。
当初のセミナーは、ブラジルでの入学手続き、帰国前に行うべき子どもへの事前説明などに関する事項であった。さらに、2011年3・11の東日本大震災で再度帰国者が増加し、約17万に減少した残留者はほとんど永住希望者だった。しかし、依然として多数の子どもが日本語能力の不足により、不登校・不就学や将来の進路に悩んでいるため、3年前からは「子どもの教育と将来を考えるセミナー」に切り替えている。
このような問題の起こる背景には、移住者受け入れ国としての日本に「外国人の子どもに日本語を教えるインテンシブなシステム」ができていないこと、同時に外国人(ブラジル人)の保護者による家庭内での幼児教育がほとんど行われていないことがある。現在、多くの保護者は、外国人への教育環境の整っていない二十数年前に来日し、十分な教育を受ける機会がないまま(ダブル・リミテッド)育った子どもが親になっており、子どもの教育方法をほとんど知らないといえる。従って、セミナーは保護者を中心に、保育園・小中学校の外国人指導担当の先生方や関係者に行っている。内容は、1)13歳ごろまでに第1言語(母語)の確立、2)家庭内での子どもの教育の重要性(ゲーム遊び・読み聞かせなど)などをポルトガル語で行い、3年前からは、親子によるワークショップ(手芸や玩具作り)を行っている。開催地域・回数は、2014年には10ヵ所・17回、2015年は11ヵ所・17回、2016年は11ヵ所・12回などである。
少子高齢化の進む中で、今後多国籍化する定住外国人の増加は間違いない。20年先には日本社会に参入することを見込んだ外国人の子どもへの教育投資、すなわち心身ともに健全な社会人として育てるか、それを怠ることによる日本の社会負担となるかの選択は日本に課せられた重要課題といえる。