活動会員のレポート

フィリピンの防災に冷や汗・奮闘で寄与
―中小企業の抱える輸出課題―

  宮越 みやこし 忠晴 ただはる (元 日商岩井)


本件のために立てた電柱に警報器具を据え付ける作業

イロイロ市長Mr. Mablogとの面談風景。
機材の無償供与に対し感謝の意を表明されたもの
(右から2人目が筆者)

引き渡し式での近隣住民との記念写真。
背景に見えるのが警報装置
(最後列、ポールすぐ左が筆者)

 私は2013年からABICの中小企業の海外進出支援活動を続けているが、毎回薄氷を踏む思いの連続である。今回はその一端の冷や汗劇を紹介したい。
 私が担当する支援企業が、フィリピンのイロイロ市向けに、河川の洪水早期警報装置を据付け渡し条件で契約した。これはJICAの「草の根事業」を活用してフィリピンで推進している「コミュニティー防災事業」の一環であり、頻繁な洪水に悩まされている地域住民に対し、水位が警戒レベルに達すると瞬時に警報を発し避難を促す装置である。警報装置メーカーは、豊富な実績を有する横浜市のユニメーションシステムである。
 それでは、今回の冷や汗劇第一幕に入ろう。

1. 今回は据付け渡しである。ここであぶり出されてくるのは、現地事情の読み誤り、あるいは楽観視である。日本の常識で考えること自体が「非常識」であることを学ぶ良い契機となる。途上国では付きものの各種の課題を学ぶのである。その第一幕は現地通関で切って落とされた。

2. 契約前の作業として、現地までの輸送費総額の見積もりがある。「転ばぬ先の杖」とし、「関税その他必要経費一切を含んだ見積もりを取ること」と強く勧めた。かつ、才数から現地通関に手馴れた国際クーリエ社からの相見積もりを推奨したが、日本の輸送大手N社からの見積もり取得のみであった。だが、これで輸送上のリスクは回避できたはずである。

3. ところが、マニラで通関ができないとの一報を受けた。N社の説明ではイロイロ市が輸入の権利を持っていないという話である。早急に解決するにはxxxドル必要、また市が許可申請をすると1ヵ月以上はかかるとの解説付きあった。極めて眉唾な話である。しかし、日本の大手N社の説明であり、また通関費用は一切含まれているはずゆえ??が重なった。

4. ユニメーションシステムはN社に何度も説明を求めた。次なる回答は、これはFacilitation feeとのこと。話が見えてきた。そこで、ユニメーションシステムに見積もりは現地通関費用一切を含むことを再度確認してみた。返事はノーである。茫然自失。N社横浜支店から現地店では関税を見積もれないとの説明を受け、ユニメーションシステムで推測したとのことであった。「非常識」が顔を覗かせた。しかし、この一言で舞台裏が透けて見えた。N社の現地担当と税関が絡んだ狂言であろう。それをうのみにするN社横浜支店のお粗末さ。しかし、貨物は敵の掌中にある。対策はいくつか浮かんだが、いずれも時間のかかる恐れが強い。今度は納期遅延という言葉が脳裏をかすめた。

5. このままでは現地の実態が全くつかめず、イロイロ市の担当者に調査依頼をかけた。詳細説明は省くが、最終的には地元業者を使い無事通関・納入も完了した。費用xxxドルの発生はなかった。となれば、本狂言の震源地はN社現地担当者になろうか。今回のようなことは海外に不慣れな企業なら誰にでも起こりうる「常識」である。第二幕(据付け)は、また機会があれば!

 今回最大の成果は、引き渡し式における地域住民の感謝の言葉とその満面の笑みである。