活動会員のレポート

今高まる「日本企業待望論」の背景と期待される日本企業の発想転換

中小企業国際ビジネス実務支援専門家、中小企業診断士  茂木 もぎ 次男 つぎお (元 ユアサ産業)


プノンペン市の象徴的な
オフィスビル:ヴァタナビル

流通業における経営戦略の定石を
実践し、 独り勝ちの感が強い
プノンペンのイオンをバックに
(筆者:右側)

 カンボジアを代表する大手企業グループと日本の中小企業の業務提携をABICの専門家として比較的短期間で成就させる機会を持つことができたことに、まずはABICに感謝申し上げたい。
 私は1992年に商社を退職後、経営コンサルタントとして国内外での活動、経験を積み重ねて今年(2017年)で節目の25年を迎える。これまでに、台湾、モンゴル、ミャンマー、カンボジア、ラオスを中心に継続的なコンサルティング活動、現地企業と日本企業との国際的連携の推進を数多く行い、この間にJICA、JETRO、HIDA、EBRDの専門家として活躍する機会を多く持てたことは、自らのミッションを果たす上で大きな力をいただいたと思っている。
 カンボジアとの関わりは2004年からで、現地でのコンサルティング活動、日本企業との連携を推進してきた。うち1社は日本の代表的な菓子メーカーとの業務提携を実現した。
 このたびのカンボジアの大手企業グループとの関係は2016年後半に現地のパートナーを介して同グループのCEOおよび経営幹部との会合を持ったことが契機となった。
 同グループはインフラ工事を含む建設、不動産開発、ビールなど各種飲料の製造販売、薬粧品の輸入・国内販売、幼稚園から大学院までの一貫教育事業など、幅広い事業活動を展開している。
 この中で各種飲料製造販売に関わる事業分野における今後の経営戦略、商品開発力強化のために、日本企業との提携を実現したい、との同グループCEOからの要請を受け、日本で既に当分野で長年の実績と技術・ノウハウを持つK社を紹介。同CEO一行が2017年2月に来日し、K社を視察したのを契機に、急速に提携話が進展し、MOUを締結することとなった。
 過去3年間、カンボジアへの長期出張の機会が増える中で、日本および日本企業の存在感の回復をかつてないほど実感している。いわば「日本企業待望論」的傾向が顕著になったことを特筆したい。
 その背景として、カンボジアをはじめとするASEAN新興国におけるマーケットが成長期前期から成長期後期に入った、という市場構造の変化が読み取れる。すなわち、急速なボリュームゾーンの拡大、ASEAN経済共同体(AEC)発足後の域内市場開放の進展、国際的な企業間競争の一層の激化という環境変化の中で、ASEAN新興国各国における企業は、未経験の競争場裏にさらされている、といっても過言ではない。
 カンボジアのみならず、新興国の有力企業は、従来の「作れば売れる」「輸入・仕入れて売れば確実に売れる」という時代から、消費者の安全・安心志向、ホンモノ志向の高まり、賢い消費者の増大など、マーケットの質的変化への対応が求められる時代へと大きく変化し、これに対する対応が今後の企業の命運を握っているとの危機感を強めている。いわばAEC内での「生き残り」から「勝ち残り」を意識する中で、「世界市場に通用する強い商品力、技術力、経営ノウハウ」で「既存商品・事業の見直し」「新たな事業の柱づくり」などの戦略への対応が焦眉の急となっているのである。
 このような環境変化の中で、アジア市場において質の高いモノづくりと高い技術、ノウハウでアジア各国に強い影響力を発揮してきた日本企業の持つ強みと存在感がかつてないほど再評価されているといえる。それだけに日本企業との提携に強い期待を持つ新興国の企業は少なくない。  しかしながら、日本人、または日本企業の多くが、このような変化と海外企業の期待にほとんど気付いていないことは日本にとって大きな課題とみている。
 それだけに、日頃、 ごまめ歯軋 はぎしりと自認しつつも、引き続き日本の中小企業に発想の転換を促し、海外進出支援をバックアップすることに少しでも貢献していきたいと思っている。