事務局校舎の前で
(左から筆者、八木氏、荒川氏)
指導風景
千葉県立佐倉高等学校は文部科学省よりSuper Global High School(SGH)の指定を受けており、その活動の一環として生徒が諸外国に行き、現地の高校生を対象に英語によるプレゼンテーションを実施し交流を図っている。オランダ、豪州、英国などへの派遣実績があり、2017年度も9月に生徒17人がシンガポールに行く予定となった。この企画の具体的指導をするために八木達也氏、荒川昌佳氏と共にABICより派遣され、4回にわたってプレゼンテーションの指導をすることになった。
佐倉藩の藩校として創設された「学問所」を源とする佐倉高校は220年の歴史を持つ伝統校で、全校生徒960人の千葉県有数の県立高校である。事務局が入る木造校舎のたたずまいは同校の長い歴史を表している。
今回の指導に当たっては、生徒の発表テーマ設定の経緯や準備状況、また学校側の指導方針等の予備知識が全くないままでのスタートだった。
われわれ3人がそれぞれの担当グループへの指導を開始してまず感じたのが、生徒が取り上げたテーマが大規模で、7分程度のプレゼンテーションでは到底まとめきれないし、結局理屈だけの主張になり聴衆の興味を引く内容にはならないとの危機感であった。地球温暖化や世界食糧問題を取り上げるのは不適当ではないが、もっと身近な疑問点からアプローチするべきとしてまずは発想の転換を促し、その上で日本語の原稿を大幅に書き直す作業が始まった。
この時点で、4回の教室内指導のみでは日本語・英語の原稿作成および添削からポスター・パワーポイントの準備までは到底できないと考え、生徒とのメール交換で添削を進めることを学校側に提案し、受け入れられた。おかげで2回目の指導後にはほぼ全員が日本語原稿を完成させ、英文作成の開始となった。
日本語作成段階でも指導したが、英文作成の段階であらためて感じたことは、事実の説明、個人の感想、結論と主張などが混在しているため、内容が分かりにくく、主張が曖昧になっている点であった。これは構成の問題であり、聴いているシンガポールの生徒たちが理解できないと思われた。従い、3回目の指導では全体の流れを明確にし、その上で平易な単語で理解しやすい文章の作成を心掛けるよう伝えた。書き直した英文原稿をベースに再度メールでのやりとりを繰り返し、何とか4回目の指導までに、英文原稿は完成した。
最終4回目の指導では、導入部分と終わりのあいさつを加えて、各自の原稿を読み上げてもらい、発音や抑揚の指導を行った。生徒たち共通の欠点は単語を一つずつ読んでおり、文章としての抑揚が少ないため、聞き取りにくい点であった。これを改善させ、その後ポスターやパワーポイントでの資料作成要領を説明し、指導を終えた。
われわれ3人は毎回学校に行く前に指導状況のすり合わせを行い、グループ間で内容と進捗・進歩度合いに差が出ないよう注意しながら進め、結果的には、生徒との信頼関係を築きながら当初の計画通り指導を終えることができた。今回の指導全般を振り返ると、最初のテーマ選択の段階から関与して、身の丈のテーマ設定、日常生活からの発想、平易な言葉での表現という基本方針を早い時点で共有していれば、さらにスムーズで中身の濃い指導ができたのではないかと思われた。
今回の企画は高校生としてはレベルの高い試みだが、参加した生徒は優秀で、指導に対し素直に耳を傾けていた。最後に、このプレゼンテーションは国際人として将来活躍するための第一歩となる記念すべき挑戦であり、自信を持ってこの恵まれた機会を活用し、大いに楽しんでくるよう、はなむけの言葉で締めくくった。