活動会員のレポート

地方創生事業の一端を担うことの喜び

  植田 うえだ たかし (元 丸紅)


キャリア・フェアでの講演風景

山本幸三内閣府特命担当大臣(地方創生、
規制改革)(当時)よりの感謝状贈呈式(左が筆者)

 2018年1月30日付日本経済新聞によると、2017年の東京圏への人口流入は前年より1,911人増えて、11万9,779人に達したと報じられていた。この数字は総務省が発表した人口移動報告を引用したものだが、22年連続の転入超となった。このまま東京一極集中の流れが進めば、地方にとって極めて深刻な社会問題となってくる。早急なる対応策が求められていたが、その最中に立ち上がったのが内閣府の主導する「プロフェッショナル人材戦略拠点事業」である。
 内閣府は、東京を除く46道府県の地方自治体に事業を委託したが、実質的な制度設計者であった。当事業は、都市部で働く専門性の高い有為な人材を地方企業に導き入れ、「攻めの経営」を体現して企業の活性化を図るとともに成長、発展の一役を担い、地域雇用の創出に繋げようというのが趣旨でスタートした。具体的には、力量ある人材と地方の中小企業の経営者との転職を前提とした面談機会を設けようというのが私ども拠点の役割である。
 時あたかも、ABICからマネージャー職公募の案内があり、応募したところ運よく和歌山県で採用が決まり、2015年12月より任務に就くことになった。前例がない事業ということもあって、不安感いっぱいで船出を迎えたことが、昨日のことのように思い出される。試行錯誤の繰り返しで始まった仕事も、要領をつかみ始めると徐々に形が整いだし、約1年半の在任期間中に200社を超える経営者と面談するまでに至った。事業の性格上、転職が伴うため、中小企業の責任あるトップとの折衝が不可欠であるものの、そういった要職に就いている方々は、忙しさのあまり事業内容を説明するための面談時間がなかなか取れず、苦労をした覚えがある。さらに、やっとの思いでとれたアポイントも、事業内容には容易にご理解を得られず、都市部からの転職者受け入れへの拒否反応、例えば外部人材の登用は社内で不要な不協和音を生じさせかねないとか、採用しても短期間で会社を辞められて、機密情報等を持ち逃げされはしないかなどの懐疑心が大勢を占めていた。
 一方、人手不足に頭を痛める企業経営者からは、アルバイトでもよいから人を集めてほしいと、経営に携わって会社を改革していこうとする専門性の高い人材とはおよそ程遠い欠員補充の紹介依頼を受けたりしたこともあった。
 今まで、製品やサービスの開発、取引等を対象としたビジネスを中心に活動してきた人間にとって、人を対象にした仕事は気持ちや心の問題も絡んでくるため、理屈通りには進まない局面も多々あり、初めて取り組む仕事は大変ハードルの高いものだった。ただ、中小企業の経営者との折衝業務は、型にはまった定型というものがなく、毎回、新鮮な気持ちで臨むことができたという印象が強く残っている。
 国家事業である故に成果も当然のことながら期待されるが、本事業の成否は、企業トップの人材登用に対する覚悟や決意に大きく依存していると云っても過言ではない。私ども拠点の仕事は、経営者と問題解決に向き合って、同じ目線で共に前進して行けるのかどうかということに尽きるといえよう。
 幸いにも、和歌山県の初年度成約件数は全国レベルで上位にランクされ、内閣府からも一定の評価をいただき、退任時に感謝状まで頂戴する栄誉に浴した。とりわけ地域の中小企業の方々が満足されて、成約に至った時の達成感はこの上ない喜びであり、感謝の言葉以外見当たらない思いである。