活動会員のレポート

サウジアラビアでの人材育成事業

  小松 こまつ 正和 まさかず (元 丸紅)


SEHAI前での学校関係者他との集合写真(後列右が筆者)

 「先生、質問があります。募集している訓練生の国籍はサウジアラビア人のみですか」。SEHAI(Saudi Electronics & Home Appliances Institute : 注1)の紹介、勧誘を兼ねて2017年3月にリヤド市内のある高校を訪問した説明会の質問コーナーでの場面である。私は生徒全員がサウジ人であると思っていたので奇異な印象は受けたものの「サウジ人のみです」と答えた。
 ABICから2016年2月にSEHAIシニアアドバイザー募集の案内があり、首尾よく採用され2016年6月から1年余りリヤドに駐在した。SEHAIは2009年9月に開校した日サ政府間の協同事業として高卒学生を中心とし26歳までのサウジ人を対象にした人材育成機関(2年制)であり、経済産業省資源エネルギー庁が支援を行っている人材育成団体である。名の示す通り、家電・エレクトロニクスを中心とした技術訓練を実施している。この種のサウジでの日本関係の団体にはSJAHI/HIPF(注2)の2校もあるがSEHAIが最も新しく、地元の知名度はまだ低いため、生徒数増が一つの大きなテーマになっていたが、2017年から解禁となった地元高校への直接勧誘を実施し、同年3月には都合3校を訪問した。
 冒頭の私の疑問は質問した生徒がイエメンからの難民者であったことで解消されたが、サウジでは公立学校の15%程度がイエメン・シリア等からの難民者に開放され、全て無料で受け入れを行っている事実には少なからず驚きを禁じ得なかった。
 SEHAIは就職保証制技術訓練校で生徒は入学と同時に地元協力企業への就職が決定し、授業料他をサウジ政府機関と地元協力企業から助成を得ることができる。遠方出身者には寄宿舎も完備している。初年度は英語・数学、2年度は各コース別の専門技術の修得のための授業を行っており、日本からは日本工学院八王子専門学校から2人の先生方が駐在し、技術インストラクター他を指導している。私の職務はいわば何でも屋であるが、日本側の学校運営他の助言をマネジメント側に提示することで本事業を円滑に進めることにある。
 サウジと日本の習慣・文化の違い、イスラム暦により毎年約11日間暦が繰り上がるため、宗教関係の休日(約1週間のラマダン明け休暇、約1週間の巡礼明け休暇)が近年は毎年8月の夏休みと微妙な位置関係となり授業計画にも大きな影響を与え、カリキュラム作成に苦慮していた。
 サウジは脱石油化の一環として人材育成に多大な国家予算(約25%)を拠出しており、日本もエネルギーの安定確保のため、この政策に従来より協力し大きな評価を得ており、2016年10月には初めて世耕経済産業大臣がSEHAIを訪問、視察された。サウジのみならず湾岸6ヵ国は20歳以下の人口比率が50%以上と高く、若年層の就職対策として企業誘致、人材育成事業には多大の関心を持っている。  最近のサウジ政治事情は種々の難問が累積しているが、若年層の人材育成はどのような情勢になっても同国の将来に不可欠なものになっている。
 さて、リヤドであるが、冬場(11月中旬~3月末)がこれほど寒いとは思いもしなかった。日中は30度を超えるものの朝晩は10度以下になることが多く、当初夏物しか衣服を持参しておらず、セーター他冬物衣料を地元で調達する羽目となり、自室では暖房を使用していた。カタールでの駐在経験もあり中東で暖房を使用するとは夢想だにしていなかった。
 日本人はリヤド、東部州アルコバール、ジッダの3都市に400人前後ずつ合計1,300人程度が在留しており、日本人会・日本大使館・日本人学校他で各種の行事が開催されており、私もソフトボール、フットサル、ゴルフ等の会に参加し交流を深めた。
 少ないながら当校以外の地元サウジ人の方との交流もでき、大変有意義な時間を過ごせたことは中東協力センターにも感謝している。

 注1)SEHAI詳細はhttp://www.sehai.orgをご参照ください。
 注2)SJAHI : Saudi Japanese Automobile High Institute : 日本自動車工業会後援
     HIPF : Higher Institute for Plastics Fabrication : 三菱グループ後援