活動会員のレポート

外国籍児童生徒への日本語指導に携わって

  木村 きむら しげる (元 伊藤忠商事)


七夕祭りの紹介シーン

授業風景

 日本に在留する外国人が2018年6月末時点で約263万人を突破し過去最高となる中で、日本語指導を必要とする外国籍児童生徒も2016年5月時点で約3.4万人から近年増加傾向にあると見られている。
 私が外国人に対する日本語指導に興味を持ち、ABICの「日本語教師養成講座」を受講したのは、2010年10月から2011年3月までの半年間で、本講座の講師は異色のキャリアを持たれた鈴木松子先生、受講者は60代から70代までの大手企業出身者10人(全員男性)であった。
 本講座の指導内容が初級者向け実践日本語ということで、実技の際には、一「早過ぎる。もっとゆっくりと」、二「説明が難し過ぎる。もっと平易な言葉で」、三「学習者にしゃべらせる。講じることに非ず」、と先生より私を含め受講者の多くに再三叱咤しったの声が飛んだ。しかし、その後実際に日本語指導に携わるに及んで、これらのことの大切さを実感した次第である。
 2017年9月にABICより日本語指導のお話を頂いた。それは、父親の仕事の関係で家族と来日し、公立小学校6年に編入したブラジル人男子児童(日本語ゼロレベル)に対する日本語指導であった。それまで社会人や留学生に対する日本語指導しかしていなかったので、良い機会と捉えお引き受けした。
 同君に対する日本語指導は、2017年10月から2018年3月までの小学6年および2018年5月から9月までの中学1年の期間、それぞれ週2回「取り出し指導」の方式で行った。本指導方式の呼び方はいかがかと思うが、それは在籍学級の授業から児童生徒を別室に移して特別指導を行うものである。
 小学校では、学校生活への適応を最優先させ、前半は日常生活で必要な最低限の生活言語の指導、後半は日本語基礎(音声、語彙ごい、文法など)の指導、また、中学校では、日本語基礎の指導に加え、在籍学級の教室で先生が使う言葉が少しでも理解することができるよう学習言語の指導にも取り掛かった。
 小学校および中学校の指導時期を振り返ると、環境の変化に伴い以下のようなことがあった。
 小学校へ編入した当時、言葉をはじめ文化・習慣が全く異なる日本に来て、恐らくストレスに起因するものと思われるが、教室で時々大きな声を出すということで、日本語指導ではストレスを和らげるために同君の母語であるポルトガル語でおしゃべりをする時間をとったりした。また、中学校へ進学し日本語指導を再開して間もない頃、同君は指導室に入って来るなりしばらくの間「ナゥン」(「ノー」の意味)という言葉をつぶやき続けたことがあった。同君が落ち着くのを待って理由を聞くと、新しい友だちに自分の言いたいことがうまく伝えられず、何をしても駄目と言われたので嫌になったとのことであった。また、中学校で始めたサッカーの部活動では言葉や文化の違いから友だちとぶつかることもあった。
 中学校に進んでから日本語の語彙ごいも増え先生や友だちとの簡単なやりとりは日本語で行えるようになったが、今後の課題としては、生活言語の指導継続に加え、教室での学習活動に参加できるようになるための学習言語の指導と主な教科の学習支援(予習・復習)が挙げられる。
 外国人散在地域の学校現場には、外国籍児童生徒の指導経験のある先生や日本語指導教師がいないところが多く、実際の受け入れに当たってはどこの学校も苦悩しているのが実情である。自治体および学校には、民間機関や地域団体等の外部リソースの積極的活用により、外国籍児童生徒の一人一人異なる個別性に配慮した柔軟な支援体制を整えていただきたいものである。