活動会員のレポート

国際理解学習の講師体験

  国際協力専門家 則包 のりかね 佳啓 よしひろ


授業風景

 2018年秋口、ABIC関西デスクより滋賀県大津市立粟津中学校での国際理解学習プログラムの案内を受け、講師を引き受けることになった。
 本プログラムはもとより、中学校庭に足を踏み入れるのも自身が中学生以来、初体験であった。緊張した。担当した国はフランス。特に専門家ではないが、妻がその国出身であり、何度か滞在した。語れることは一個人の取るに足らぬ生活経験からのものでしかなかったが、元来子ども好きである私は、この年になり青少年たちと多少交流する機会があり、次世代への思いに押された。
 2018年12月3日当日は、いくつかの班(3-5人)でテーマ別に自主研究を行った3年3組の教室にお邪魔した。制服に身を包んだ生徒たちは男女がペアになり行儀よく座っており、私のあいさつにも応えてくれた。担任の先生は、生徒たちとほほ笑ましく溶け合っていた。
 各班約10分弱の発表テーマは、フランスについての食、自然、観光地、芸術、日本との違い、スポーツ、有名人、お菓子、暮らしの多方面に及んだ。それぞれポスター1枚に手書きで生き生きと楽しくビジュアルにまとめられ、その内容にも、彼らの知的好奇心の深さ広さにも敬服した。
 その後、講師の持ち時間となった。各班の健闘をたたえ、参考資料としてフランスで使用されている実際の中学教科書(歴史・地理・公民)を生徒たちに回覧し、司馬遼太郎著『21世紀に生きる君たちへ』の本文コピーを各自に配布した。また、次のような項目について教室内を回りながら生徒たちに語りかけた。一期一会に感謝、日本の国際結婚、フランス語と英語、日仏国交160周年、日仏ニュースとステレオタイプ・偏見、『137億年の物語』(クリストファー・ロイド著)の紹介、釈迦しゃか入滅から56億7000万年後の弥勒菩薩の下生、等々。
 自身の国際経験を振り返り反省してみて、特に彼らに伝えたかったことは、自国の歴史文化をできるだけ理解・体得し、他国のそれと比較し、違いの中にも人間として共有・共感できる平等性や連帯感を見出してほしいことであった。そのためには、メディア情報を受容するだけではなく、自分自身で国際情勢を研究・分析したり実際に海外に旅行したり生活したりして、より多くの直接体験を積み重ね積極的に国際的に外向きな自己を育む努力が必要だということだ。
 さて、彼らと接して何よりも印象的だったことは、一人一人個性に満ちており、その個性に新鮮な頼もしさを感じたことである。個性おのずから出る特性・異質性・多様性といったものが個人の生きがいを育み、自由・活力ある人間社会を整え、ひいては国と国、そして地球社会の平和へとつながってゆくものと願う。
 その一つの鍵は、寛容性や慈悲心の学習・訓練であることは相違ない。人工知能(AI)が人類のそれを凌駕りょうがせんとする現代、これからの人間の使命は、知識・知能よりも意思や精神面での友愛的進化を遂げることにあると思う。
 このような観点から、ABICが協力するこのような国際理解学習への取り組みは、ますます推進されてゆくことを切に期待するものである。