HIHウェルカムパーティー(右端が留学生Y君、左端が筆者)
私は兵庫国際交流会館(HIH)で留学生を対象にABIC日本語広場中級クラスを5年近く担当している。前任の方とは日本ポーランド協会関西センターの会員同士でもあり、スムーズに引き継ぐことができた。また、ABICでは日本語教育以外に、関西圏の中・高等学校にて、国際理解教育の一環として私が留学していたポーランドについて紹介する機会もいただいた。
私はピアノ実技の講師として教育現場で仕事をしているが、外国人に日本語を教えるのは初めてで当初不安もあった。しかし、前任の方の授業を拝見し、独自のテーマや教材を使用し和やかにされているのを知り、自分も留学経験を生かし、学生の立場になって話題を考え、自然に日本語を習得できるように文化交流を通して、学生から自発的に発言できるレッスンをしてみようと毎回チャレンジを続けている。
中級クラスには主にアフリカやアジア諸国からの学生が在籍している。アフリカ諸国について、ほとんど知識がなく、アフリカの地図さえ正確に描くことができなかったし、宗教についても、イスラム教の知識はゼロに近く、ABICの会員になったことで、自分の知らなかった世界に関心を持つようになった。中級クラスの留学生の多くは、来日するまでに日本語を勉強してきている。日本のマンガやアニメで「育った」世代で、同じ話題で盛り上がると思いきや、私が子供の頃見ていたマンガやアニメとは時代が違い、かえって彼らからストーリーを教えてもらったり、その面白さを熱弁してもらったりして、講師と生徒が逆転することもしばしばある。
留学生が日本の大学や専門学校に通って一様に感想を述べることがある。「日本の大学生はおしゃれで、学校に行くのにブランド物を着用している」「みんな勉強の目的がなさそうで、卒業したら何の仕事に就きたいか分からないし、授業よりもアルバイトの方が大事みたいだ」。日本人として「あちゃ~…」と内心汗をかくことしきりである。彼らがこのような同世代日本人学生たちと将来世界のどこかで競争、あるいは協力して仕事をするかもしれないと思うと複雑で心配な気持ちである。
日本に留学した目的が明確で、現在もその道をひた走るある留学生がいる。2年半前にアフリカから来日し、ABIC日本語広場中級クラスに毎回出席し、メキメキ上達したY君である。彼との最初の出会いは、私の知人がある学校の始業式で、来日したばかりのアラビア語を話す子供のために通訳を探していたので、ABICを紹介させていただいたところ、ちょうどY君が引き受けてくれ無事解決した。この件の出どころの私にあいさつに来てくれたことが始まりであった。その後Y君は毎週受講してくれるようになり、日本語検定試験や留学生対象の各種イベントにも積極的にトライし、HIHでのウェルカムパーティーでは司会を務めるなど、留学生仲間ではちょっとした有名人になった。そして大変うれしいことに、私のピアノリサイタルや出演するコンサートに他の留学生友達と一緒に聴きに来てくれ、応援してくれた。きっと日本語を教えている時の私と、舞台の上での私のギャップが面白かっただろう。
彼はICTを専攻し、卒業後は日本のIT関係の会社に就職希望であった。そしてその通り、卒業と同時に自分で就職先を探し、情報セキュリティー会社のインターンとして採用され、2019年3月には正社員として契約するところまでこぎ着けた。そしてさらに将来は自分で起業したいという明確な夢がある。
社会人となった彼は、今でも時々忙しい合間を縫って、中級クラスに来てくれる。日本で就職を果たした彼の話は後進の留学生にとり興味深く、後輩たちに良い刺激になっている。「今度はIT専門用語や営業言葉、日本の会社で使う独特の言い回しが必要だね!」
多くの出会いを提供してくれるABIC日本語広場は、今後も楽しみである。