活動会員のレポート

京都の土地柄の面白さ

おか 克美 かつみ (元 伊藤忠商事)


京都市内で実施された外国人留学生と企業とのマッチングイベント

 2014年6月にABICから紹介を受けて、京都高度技術研究所という京都市の外郭団体の仕事をお手伝いすることになり、以来6年近く同所でお世話になっていることになる。同所は名前の通り「ICT研究開発の実施」といったテーマでも活動しているが、それ以外に「地域産業の活性化」、「産学公連携による産業の振興や創設」、「持続可能な未来社会の創造」といったテーマで活動している部署もあり、私は主に京都市の地域産業の活性化、成長を支援する部署で、海外市場の開拓に取り組む中小企業に対する支援を行っている。もともと商社やアパレル企業で海外市場開拓の仕事に長年携わってきたので、素材や業界は違うとはいえ、ある程度は経験の生かせる業務といえる。
 ただ、もうけてなんぼの成果が問われる「結果」がすべてのビジネスの世界と違って、公の資金を使っての活動につきものの「広く遍く」という発想と文化にはいまだに違和感があるが。
 また、純粋大阪人である私が京都という見知らぬ土地柄に慣れるのはなかなかに面白い挑戦だったかもしれない。正直いまだに100%慣れたとはいえないし、民から公、大阪から京都というダブルでのカルチャーショックにぶつかることも多々あるといえる。それだけ刺激があって退屈しない職場である。
 皆さんご存じと思うが、任天堂、京セラ、堀場製作所など京都で生まれて大企業まで成長した多くの会社は、ほぼ例外なく本社を京都から東京には移さない。いつまでも京都を本拠地として事業を続けていくことは、京都の企業にとっては当たり前のことなのである。また京都の産業の幅と奥行きには正直驚いた(それだけ私が無知だっただけともいえるが)。当たり前だが京都にはいまだに数多くの伝統産業系の事業が残っているし、そこから派生したものづくり系の企業が多く存在している。
 例えば、繊維産業からは織物の精練、加工技術から派生したローラー加工の技術が金属や食品、自動車関連などの分野に転用されて生かされている。染色分野からは化学系の企業が生まれている。また京焼に代表される陶器産業からはセラミック材料や加工などの分野に新しい技術を生み出す企業が育っている。
 京都に限ったことではなく全国各地でも同じような伝統産業からの派生は生まれていると思うが、何といっても伝統産業の歴史が長く、幅広く多くの伝統産業を育んできた京都は他の地域を凌駕りょうがする数多くの派生企業を生んできたといえるのではないだろうか。
 京都はまた学園都市という側面もあり、市内に33の大学と9の短期大学があり、大学発のベンチャー企業の多さも際立っていると思う。そこから生まれる先端技術と既存の産業が結びつくマッチングに、われわれのような公の機関と京都ローカルの金融機関が大きな役割を果たし、いわゆる産学公に金融を加えた産学公金という連携の図式が確立している。近年そこに加えて、海外留学生を主な対象とした高度外国人財を結び付けようとする動きも活発である。つまり産学公金に外国人財の取り込みもプラスしようとしている。
 京都でアルバイトなどをして働く留学生は4,000人以上、彼らは卒業後日本企業への就職を希望するケースが多く、その受け皿が大企業にとどまらず、近年は中小企業にも広がっている。私が支援している企業でも、英語、中国語、日本語が完璧に話せる台湾の留学生を正社員採用し、海外向けのビジネスを大きく伸ばしている企業がある。
 最近、世界的な需要の鈍化も影響して中小企業にも厳しい経営環境となっており、大企業の下請けに甘んじてきた企業にはますます厳しい未来が予想される。一方ニッチな分野でも独自の技術に立脚して、大企業と互角、あるいはそれ以上に先を目指すグローバルニッチトップ企業と呼ばれるにふさわしい中小企業が、今後もここ京都からどんどんと生まれると期待している。