活動会員のレポート

大津市立粟津中学校の「国際理解教育」を体験して

  今井 いまい 義人 よしひと (元 東レ)


講義風景

校長室にてABIC講師陣と(中央が川辺校長、左端が筆者)

 2019年10月にABIC関西デスクから、粟津中学校での「国際理解教育」講師の依頼をいただいた。同校は私の母校であったため、半世紀以上経て遅ればせながら、少しでも恩返しができればと喜んで引き受けた。担当国は5年間の香港駐在中、毎週頻繁に訪問した中国である。
 ABICと粟津中学校とは2002年から18年間続く歴史があると聞き、同校の期待を裏切らず、ABICの名前に恥じない授業にすべく周到に準備した。まず、担当教諭との事前打ち合わせを持ち、配分される2校時分の使い方と、生徒が発表する項目を確認。学校が期待する国際理解教育について考えを聞き、予定する講義概要を説明し了解を得た。
 授業の1校時は生徒が8班(4人/班)に分かれ、各班が選択した、中国の気候風土、歴史、食文化、環境問題、公害、世界遺産、観光名所、縁起物の8項目を大判の用紙を用いて発表した。その後、15分程度経験を織り交ぜながら発表内容についてコメントした。食文化を担当した班は、中国4大料理だけでなく、家庭料理と屋台、行事料理、食事のマナーと、各人がそれぞれ異なったアングルから説明した。料理の羅列ではなく、文化の側面から食を捉えており、あっぱれな後輩を見直すと同時に、チームワークのよさを称賛した。
 2校時は私から、①現代中国の理解を深めるために、国の在り方を日本と比較、②中学生が悩む「学習」の意味、③社会経験を経て今伝えたいこと、の3点を話した。
 粟津中学校は創立70周年を迎え、現代中国とくしくも同年齢になる。中国を身近に感じてもらえるよう「五星紅旗」を取り上げ、国旗が共産党の人民指導を象徴していることを説明すると、多くの生徒から新鮮な驚きの反応があった。日本国憲法前文の「国民主権」と、中華人民共和国憲法序言の「共産党の指導」(邦訳)を比較し、国の理念が違うこと、共産党組織のヒエラルキー、一般人に普通選挙権がないことなど、国家体制の違いを説明した。メディア報道では分からない国の在り方の基本的な違いを知ることから、正しい国際理解が深まると考える。
 「なぜ学習が必要か?」の一回答として、S. Jobsがスタンフォード大学卒業式で述べた“Connecting the dots”(英文)を紹介した。どこまで理解されたか不安があったが、終了後の感想文で「いつか役立つと信じて、これからも頑張ります」と、この引用が強く印象に残ったと書いてくれた生徒がいてうれしい思いがした。
 経験談は時間切れに追い込まれ、はしょることになってしまった。時間管理の甘さを反省し、生徒に十分説明しきれなかったことを悔やんだ。内容は初めての海外駐在(シンガポール)時代、東南アジアにある赤字続きの海外事業を立て直した経験談。詳細は省略するが、「成功の鍵」はぎりぎりまで追い込まれた関係者が一致団結してONE TEAMとして難局に立ち向かったこと、無条件に任されたため、権限と同時に強い責任感を持ったこと。そして一番伝えたかったことは、学校のテストと違い、社会では誰も正解を持たない、自分で答えを見つけるしかない状況では、日頃から課題設定と解決するための経験を積むことが将来役立つ、ということである。
 講義終了後、生徒代表からのお礼の言葉に感激し、規律正しく教育されている今どきの中学生を見直した。3年学年主任からは2020年もよろしくとあいさつをいただいた。
 最後に、今回の学校教育でお世話になったABIC関係者の皆さまにお礼申し上げる。