活動会員のレポート

鳥取県のロシアビジネス展開

  鳥取県ロシア専門マネージャー 松原 まつばら ひとし (元 丸紅)


モスクワにて、「実業ロシア」と
県関係者との協議の様子(中央奥が筆者)

定期DBSクルーズ・フェリー「イースタンドリーム」号

 ABICの紹介を受け、2019年4月より、鳥取県庁はじめ同県の企業のロシアビジネス推進のお手伝いをさせていただいている。鳥取県は、地域活性化の観点からも、海外(特に日本海を挟んだ対岸の諸国、ロシア、中国、韓国等)との観光・文化交流のみならず、経済関係の推進・拡大に長年にわたり注力してきている。10年前よりは、鳥取県の境港より韓国の東海を経由してロシア沿海地方のウラジオストクまでの定期貨客船フェリーが運航している。このフェリーは、三つの寄港地の頭文字をとり、DBSクルーズ・フェリーと呼ばれる。日本海沿岸の鳥取県境港から、日本の中国地方諸県のみならず、関西や首都圏からの貨物や旅客を「イースタンドリーム」号で輸送する重要な航路である。DBSクルーズ・フェリーは、日本海沿岸からロシアへの唯一の定期フェリーであり、鳥取県は、当初より運航支援をしている。残念ながら、2019年末に運休となったが、2020年の3月より再開予定である。
 鳥取県は、ロシアの沿海地方(ウラジオストク)、ハバロフスク地方、中国の河北省、吉林省、韓国の全羅南道、江原道、モンゴルの中央県などと姉妹都市協定を結んでおり、北東アジア地域の国々との姉妹都市交流も盛んである。県や県内の企業がそれら諸国との交流やビジネス展開する際の外国語サポートのため、中国やロシア、韓国、モンゴルから日本語のできる優秀な方々を県は職員として雇用し、対応している。ロシアからは、3人が県の海外関係の部署に勤務している。また、県庁の職員の海外人材育成にも長年来、注力している。ロシアについて言えば、若手職員を外務省のロシア関係課やウラジオストクの日本総領事館に毎年2年間程度派遣し、ロシアでの業務を通じて、ロシアの知見を積むと同時に、ロシアとの人脈形成を図っている。こうした経験を経た方が県に戻り、その知見を活用し、県の関係部署や幹部として活躍している。県庁で、ロシア語のできる職員の数も、10人を優に超えているであろう。
 最近の鳥取県の対ロシア経済戦略は、従来のロシア極東中心から、西のロシアの欧州部へその重心を幾分移動させているといえよう。それは、県内の医療機器製造企業のロシアへの輸出の動きであり、鳥取大学医学部との連携で設立した創薬企業のロシアへの展開、環境分野では、都市ごみ処理技術や設備の輸出、県内のIT企業のロシア企業との協力などである。これらの推進中の具体的な諸案件は、日露首脳間で、協力の合意がされている重要8項目に合致している。また、ロシアにおける対日ビジネスの最大の牽引者である「実業ロシア」のレピク会長(兼「露日ビジネスカウンシル」議長)と鳥取県の平井伸治知事との間で、双方の経済協力具体化に関する覚書が、2019年6月鳥取にて調印された。この覚書によっても諸案件の実現が加速化されている。2020年は、日ロ両国政府が、「ロ日・日ロ両国地域間交流年」と位置付けており、県内企業の推進中の諸案件の実現もあとひと踏ん張りのところまできていると思っている。鳥取県の仕事をいただき、はじめて訪問した鳥取の地ではあったが、商社でのロシアとのビジネスの経験が鳥取の方々に少しはお役に立てているように思われ、うれしい限りである。諸案件の実現の暁には、鳥取の方々と、地元の米「強力」で造られた美酒で盃を重ねたいと心待ちにしている。