活動会員のレポート

パキスタンの縫製業者

  北山 きたやま 貞一郎 ていいちろう (元 三菱商事)


パキスタンでの講演風景

 2020年2月26日(水)、途中バンコクでの約4時間のトランジットを経てパキスタンのラホール空港に降り立ったのは、現地時刻の夜の10時40分。合計約14時間の長旅である。パキスタンへは、JICAが2016年より当国のアパレル産業の競争力向上と輸出促進の支援を行っている。具体的事業はアジア共同設計コンサルタント社が受託し、管下に諸々の分科会がある。その中のマーケティング部門をデロイトトーマツが請け負っている。パキスタンの縫製業界は欧米向けには商売はあるものの、アジアの中の一大消費国である日本および中国向けにはほとんど商売ができておらず、機会を模索しているとのこと。私がここへ来たのは、2019年9月にABICより案内を受け、中国および日本におけるアパレル小売の現状と開拓のポイントを現地の縫製業者向けに講演するためである。私は2019年まで6年強にわたり上海に駐在し、衣料製品取引を行ってきた。また1995年より5年強、カラチに駐在していた。20年ぶりの訪問となる今回、どれほど発展しているのか興味があった。
 ラホールでの空港からホテルへの送迎車にはチョキダール(ショットガン携帯のセキュリティーガードのこと)が同乗する。治安は以前より悪化しているのか。また街中の景色も昔とさほど変わっていない。強いて言えば舗装道路が若干増えたくらいか。
 今回の講演ではカラチとラホールの2都市で、私を含め4人の講師がそれぞれのテーマに沿った話をすることになっていた。世界有数の棉産国であるパキスタンの綿花は繊維長が短いため太番手の紡績に適している。そのため主な製品用途がタオルやベッドリネン、あるいは衣料品にしても実用カジュアル用品が多く、高付加価値化を目指しているとのことであった。ラホールではデニム製品を原料段階から製造しているAZGARD NINE LTD. という会社を訪問した。デニムというのは決して飽きられることのない永遠の定番商品である。主に太番手の糸を使用するので当国で製品まで生産するに最適の商品である。訪問した会社では生地の後加工も含め、実にいろいろな商品を開発しており、非常に向上心に富んでいる。昔の主な顧客であった当国の紡績会社の印象といえば、STATE OF THE ARTな最新鋭の機械を入れているので品質には自信があると言って改善には無関心な会社が多かったので、相当意識も変わったのかと期待した。
 週末にカラチへ移動したが、カラチの街中の様子もラホール同様20年前とさほどの変化はない。われわれから見れば閉鎖的であることが、国の発展を阻害している一因であろうか。今回ウルドゥー語への通訳をお願いした、在パキスタン50年以上という寺谷さんによれば、経済面は20年前と比べむしろ悪化しているのではとのことであった。
 繊維製品の高付加価値化というと、すぐ細番手使いであるとか、衣料製品というイメージを持つようであるが、当国で生産するに適した商品であるとは言い難い。折角世界指折りの太番手をひくに適した棉産国なのだから、その棉花を使用した商品開発に付加価値への道があると思う。今回の講演ではそれぞれ約40社が参加され、中国と日本における商慣習や志向の違いを説明するとともに、本件にも言及した。ないものねだりをするのではなく、自国の強みを再認識して商品開発すべきと。はたして、複数の会社からは、それよりも買ってくれる相手先をパキスタンへ連れてきてくれという要望が多かった。ラホールで会ったような探求心に富んだ会社が多く出てくることを望むばかりである。
 最後に今回の講演に際し、細かいところまで気を使っていただき、大変お世話になったデロイトの西野氏、櫻井氏、柴田女史、アジア共同設計コンサルタントの南女史、そしてABICには厚く御礼申し上げる。