活動会員のレポート

日本の中小企業事情(高知県鋳物鋳造加工会社)

  櫛山 くしやま 盛朗 もりろう (元 JFEスチール)


作業場で個々人にパソコンのエクセルの指導

週1回関係課長を集めて問題点と改善点の協議

 2018年9月にABICから、高知県の「鋳物鋳造加工会社」の生産管理、工程管理の仕事をしないかとの打診があった。これは内閣官房 の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の一環で、高知県からABICに人材紹介の依頼があったところから始まっている。
 大学を卒業後日本鋼管(現JFEスチール)に入社し、一貫して鉄鋼関係で仕事をしてきたが、定年後は経済産業省の仕事で、タイ国立大学の工学部で「日本企業文化論」の講師をしていた。ABICから話があって考えたのは、企業の国際化、製造拠点の海外移転が進み、日本の中小企業はもう劣化が進んでいるのかと気になり、話をお受けすることとした。
 支援会社である「トミナガ」は高知市内にある鋳物鋳造加工会社である。販売先は主に繊維機械メーカー、造船会社への部品供給である。依頼を引き受けるに当たり、事前に工場見学に行った。国内で鋳物会社を数十社見た経験があるが、加工設備にこれほど投資している企業は少ない。また、若い社長と課長5人の意気込みに感じ入り、引き受けることとした。
 受注管理、製造管理、工程指示、出荷までの全体プロセスの把握から始めた。当初は双方の理解を得るため、恐る恐る始め時間がかかったが、それを乗り越えると一気に作業が進んだ。生産実績・設備作業負荷の把握がいかに大事か、また、設備の作業負荷の平準化が生産性をいかに高め得るかを具体的図表で示して納得してもらっている。
 担当者を紹介すると、地道に着実に行う課長、私の意図をくみ取り積極的に事前に案を考える課長、シンプルに考え意見もはっきり言える課長、現場、需要家を知り前向きに皆をリードする女性課長。多士済々である。
 当初は、トミナガで使用している用語の違い、そして高知弁の独特の語尾が理解できなかったという困難はあったが、これも楽しい発見でもあった。指導・教育方針は、日本企業の特性として①惻隠そくいんの情、②恥の文化、③陶鋳力の三つの特性があると考えており、技術の蓄積が企業の価値を生んでいると信じている。いろんな具体的事例を取り上げて、教えると興味を持ってくれて質問が来る。マスコミが最近の若者の根気のなさを喧伝けんでんするが、経験して思ったことは、日本人の能力の高さには少しも衰えたところはないということである。彼らが自主的に問題点を発掘し、その解決策を見出してくれることを期待してやまない。
 仕事を終えると、高知市内の酒場に出向いた。「ひろめ市場」というところで、カツオのたたきを始め、高知県産の名産が所狭しとそろっており、多くの観光客や地元の人が集っている。一人で行っても周りの人から声を掛けられ、30分のつもりが2-3時間あっという間に過ぎてしまう。高知県人も大変人懐っこい性格を有しておられる。特に女性の一人客の酒豪には驚かされている。まさに鬼龍院花子を想起させられた。
 昨今の新型コロナウィルス問題で、世界貿易システムのサプライチェーンの崩壊が危惧されているが、日本は諸外国とは異なり、産業の「複雑性」(中小企業の存在)が残っている。日本の「ものづくり」文化はAC(アフターコロナ)時代では日本の強みになるものと信じている。日本の、特に地方の産業の活躍を期待したい。