活動会員のレポート

関西2大学の学生に国際通商問題を講義する意義

  アールFTA研究所 代表取締役 麻野 あさの 良二 りょうじ (元 大阪商工会議所)


セミナーで講演する筆者

 ABICに入会して間もなく、大学支援活動の一環として同志社大学での非常勤講師就任の機会をいただいた。受講生300人超の商学部「国際ビジネス」講座を5人で分担し、3コマを受け持つことになった。私の担当は、自由貿易協定(FTA)を含む通商環境の変化と、米中貿易摩擦に代表される国際通商問題。日々状況が変化する命題のため、できる限り最新の情報をタイムリーで分かりやすく、同時に企業反応の具体例などを交えながら解説することを心掛けている。かつての在パキスタン日本国大使館専門調査員、シンガポール日本商工会議所事務局長などアジア中心の在外活動に加え、アフリカや欧州などとの経済交流に努めた経験を基に、国際社会との関わり方を学生たちが主体的に考える切り口の提供に寄与できれば至上の喜びである。
 同志社大学商学部での講義2年目に当たり、ABICより四天王寺大学でも非常勤講師の機会を紹介いただいた。四天王寺大学は、約1,400年前に聖徳太子が創建した日本最古の学問所「四天王寺敬田院」を起源とし、1967年に創立した。「和のこころ」に基づく「自由の精神」「共感」「調和」を教育理念とする仏教系の共学制大学で、大阪府羽曳野市にキャンパスを構える。
 単独担当の人文社会学部「国際経済学」を、初年度(2019年度)は貿易、投資、金融、多国籍企業、人の移動、中小企業、環境問題を中心に編成したが、2020年度は新興国の台頭や国際機関・国際会議の役割なども加味する予定。各分野の最近の動向に注目し、国際金融にフィンテック、多国籍企業ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)、環境問題に関してはSDGs(持続可能な開発目標)を含めるなど、企業活動の実際を反映した講義内容を目指している。2019年度受講生に課したレポートのテーマは、「関心のある国、行ってみたい国・地域」。自身が関心を抱く国・地域を明らかにし、関心を抱く理由を「国際経済」を切り口に説明することを求めた。結果、関心国はアジア、欧州、大洋州、米州がほぼ均等に選択され、国際経済での関心分野はサービス貿易を筆頭に、物品貿易と観光が続き、経済政策や人の移動が続いた。特定産業への関心は、医療、食品、IT、エンターテインメント、スポーツなど多岐にわたり、政策では技術革新、Brexit、東京オリンピック、投資などが関心を呼んだ。この課題レポートは期待以上であり、学期途中に学生たちの本音を確認することができ、その後の講義展開に大変参考になった。今後も受講生の関心と講義内容との接点をより多くつくり出すため、さらなる工夫を試みていきたい。
 同志社大学も四天王寺大学も、担当講座は年度後半で9月開始である。現在、新型コロナウイルスの影響で全国的に大学が閉鎖となり、授業はオンラインで行われている。キャンパスにおいて学生たちの反応を実感しながら、教壇から90分の講義を行う興奮と感動を体感できないのは非常に厳しい。コンピューター画面を通して、教員と学生の熱意がどこまで相互に伝わるのか不安な限りだ。一日も早く事態が収束し、9月にはこれまで通り、教壇から受講生たちに直接語り掛ける日常が戻ることを願ってやまない。
 末尾ながら、元々教師志向であったにもかかわらずその道を選択しなかった私に、人生の最終コーナーにおいて長年の夢を実現する機会を頂戴したABIC関西デスクの大学講座担当コーディネーターの皆さまに、心より感謝の気持ちを表したい。


2019年度講義資料(抜粋)