活動会員のレポート

ユニコーン企業を目指して

  上山 うえやま 光夫 みつお (元 三菱UFJ銀行)


新大阪オフィスにて管理部長と(右が筆者)

 2018年1月からABICの紹介で週3日Quantum Biosystems(QB)社の管理部の手伝いに行っている。QBはライフサイエンス分野でユニコーン企業を目指すスタートアップベンチャーで、世界最先端のDNA/RNAの解析システムを開発している。もともと大阪大学の特許をベースに設立された会社で、本社は東京だがラボは新大阪とシリコンバレーにある。ちなみに経済産業省が主導して2019年に開始されたスタートアップ支援プログラム「J-Startup」に選定されている。
 管理部は新大阪オフィスにあって、半導体チップ開発グループと米国にあるシークエンサー開発チームをサポートする黒子の役割を担っている。QBは設立8年目だが、開発ベンチャーなので売り上げはゼロ。出資者からの資金で研究を行っている。これまで数十億円の資金を集めているが、いまだ生みの苦しみを継続している。
 私自身は銀行に勤務した経験が長いので、つい会社を融資の基準で見てしまうのだが、入社当初は売り上げがなくて毎年数億円の赤字を出し続けている会社があるとは信じられなかった。次いで、継続した出資がなければ会社として生き残れないという危機感の中で研究を続ける意志力を大したものだと思うようになった。日本にもこういう会社が出てきているのだなと思うと、研究が成果を上げて、関係者が上場や会社売却で大きく成功してほしいと心から願ってしまう。
 新大阪オフィスには、日本人数人のほかにスペイン人の研究設備開発者と米国人のIT担当者がいた。スペイン人は米国子会社でシークエンサー開発に使用する精緻な実験装置の作成が担当だが、仕事の合間に暇を見て開発用の3Dプリンターでおもちゃの人形などを作ってみんなを楽しませてくれる。私にとっては、スペイン駐在時以来のスペイン語会話時間だ。仕事の話もするが、先日休憩時間にフランスからサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂までスペイン北部を横切る「カミーノ」という巡礼の旅の話をした。職場では宗教の話は一切しないが、810kmにわたるトレッキングの話で盛り上がった。
 研究開発の中心はシリコンバレーにある米国子会社で行われている。電気、物理、遺伝子学などの専門家たちが日夜実験を行っている。また英国にも情報関係の従業員が1人いて、業務管理は米国子会社が、人事管理は管理部が行っている。先日その英国人が退職することになり、日本でいう「離職票」発行手続きが必要となったが、過去に人員の入れ替わりが激しくて、英国政府に登録すべき十分な資料が管理部に残っておらず離職手続きが停止してしまった。
 米国にいるCFOと相談して対応したが、私が管理部に残っていた乏しい資料を積み上げて組み上げた論理的結論を送っても、CFOは経験豊富の自信家で「俺の常識外だ」として否定的な態度を取り続けた。しかしほかに方法がないので対応してもらったところ、結果的に私の推論が正しかったことが判明した。CFOから特に言葉はない(笑)。
 QBは世界最先端の開発を目指しているだけあって、研究開発部門は日米共にその分野ではトップクラスの専門家ばかりの集団である。研究開発部門には及ばないが、管理部門も研究部門をサポートするために、IT知識や労務管理などの高いレベルの専門性が要求されるので、日々情報通信分野などで新しいことを学びながら、過去の欧州と米国の駐在経験を生かして、経営や財務経理の分野でできる限りサポートしたいと思っている。