活動会員のレポート

オンラインでの英文契約書研修

  山根 やまね 昭郎 あきお (元 住友商事)


筆者

 ABICから「英文契約書研修」をやってみないかとの問い合わせを受けたのは、2020年6月下旬である。その前に、2019年9月から数回にわたり、ABIC経由で取引先の社員向け英文コレポン研修の講師を務めた。しかし年が明け、折しもコロナ禍が広がる中、その研修が取りやめとなった矢先のことだった。
 その取引先経由でABICに英文契約書の研修の検討を依頼してきたのは、鉄道会社とのことだった。なぜ国内で事業展開している会社が、社員に英文契約を教育するのかと素朴な疑問を持ったことを覚えている。
 何はともあれ、大急ぎで研修カリキュラムの概要をまとめ、提出した。その冒頭に書いた「講義の狙い」は、次の通りである。
• 初級者が一から学んで、国際契約の基本が身に付くようにする。
• 一過性の知識でない、応用が効く英語と国際法務の基礎力を養う。
• 机上の学問でなく、生きたビジネスが契約の土台にあることを知っていただく。
 こう書くと、読者の皆さんは、私がさぞや知識豊富な国際法務の専門家だと思われるかもしれない。しかし事実はまったく異なる。
 私が商社で過ごした40年は、ほとんど貿易の営業畑で過ごし、英文契約や国際法務を専門的に学んだことはなかった。駐在した国は、イラン、クウェート、マレーシア、タイの4ヵ国であり、英米で英語を習得したこともなかった。むしろ慣れない中東の地で英語での交渉に翻弄ほんろうされたり、アジアで会社運営上の契約に苦労を重ねたり、いわば現場中心に経験を積んできたというのが実態である。
 しかし逆に、そういう最前線で営業活動を行い、契約遂行に格闘してきた自分であるからこそ、お教えできることがあると思い、上記の「狙い」をしたためた。
 幸いにしてこの「狙い」や講義案が受け入れられ、受注が確実となり、話は順調に進むかと思われた。しかし、またしてもコロナである。当初、大部屋での寺子屋式講義を想定していたが、数ヵ月を経て、最終的にオンデマンドのウェブ講義を行うことに決着したのが10月下旬であった。3日間で想定していた講義内容は、1回当たり1時間で9回のオンライン講座として編成することとなった。
 11月の1ヵ月をかけて合計で409枚のスライドを作成した。教材には市販の本を受講生に配布することとした。これには英文契約のひな型と対訳が書かれているのみで、英文契約の詳しい説明は入っておらず、初心者が読みこなすのは難しい。そこで、その解読や解説は全て新たに作成して、講義に織り込むようにした。12月には、スタジオに詰めて、スライドを繰りながら講義を行い、画面と音声をビデオに収録する作業に追われた。初めての経験で、大変な苦労であったが、何とか撮り終えたときには、ほっと安心するとともに心地よい疲労を覚えたものだった。
 講義では、中東や東南アジアで経験した契約上の失敗談や、英文の読みこなし方について自分なりのノウハウを盛り込んだ。まさにこれがこの案件を引き受けてみようと思った動機だったからである。
 最後に、国内鉄道会社がなぜ英文契約を社員に教育したいのかという疑問についてお話ししよう。それは、国内で培った鉄道運行能力を活用した海外の鉄道会社との共同事業をさらに展開するために英文契約書の社員教育が必須だからだと聞いた。私の講義がその一助になれば幸いである。なお契約交渉、遂行においてABICの多大なサポートを得た。感謝を申し上げたい。


研修資料(抜粋)