活動会員のレポート

美食の宝庫、石川県

  西岡 にしおか ひろし (元 チョーヤ梅酒)


2018年9月谷本知事より任命状を授与される
(左が筆者)

2019年6月パリのホテルリッツでの晩さん会にて

 早いものでドイツ在住30年になってしまった。
 2008年に前職(チョーヤ梅酒のドイツ現地法人社長)を辞して、しばらくしてABICの存在を知り、登録させていただいた。その後は国外在住者のせいか、なかなかチャンスがなかったのであるが、2018年の夏にABICの紹介で、ISICO(石川県産業創出支援機構)から欧州地域でのセールスレップの委託業務(1年ごと更改)を受けるに至った。
 2018年9月に石川県庁の知事室で任命式があり、谷本知事ご出席のもと、ABICから岩城理事長、山口事務局長(当時)、川俣コーディネーターにも出席いただいた。県産品の食品および工芸品の欧州での販売促進が主要な業務内容である。
 かねてより、石川県は国内有数の美食の町であると考えていたし、JETRO金沢でドイツ向けの海外セミナーの講師として招聘しょうへいされたことも何度かあったので、ABICの紹介のおかげで石川県とのご縁ができ大変ありがたかった。石川県の魚がおいしいのは皆が知っているだろうが、例えばかんきつ類やお茶の栽培の北限だったりして、石川は多種多様な食材の宝庫でもあるのだ。
 2019年5月末から6月初めにかけてロンドン、パリ、フランクフルトの英仏独3ヵ国で石川県の商談会を開催した。特にパリではホテルリッツで商談会と晩さん会も開催したのが強く印象に残った。リッツといえば故ダイアナ妃が定宿にしていた高級ホテルである。
 出展者は清酒、食品、工芸品など多岐にわたっていた。また金箔きんぱくや漆塗りの職人、金沢の芸妓衆も来て、来場者のアトラクションとして大いに盛り上げてくれた。欧州でのビジネス商談会はおかげさまで大成功であった。出展者の多くは欧州への商品の取り扱いが始まり、満足していただいたようである。2020年1月末にはフランスからKura Masterという清酒のコンクールの審査員たちに石川県を訪問してもらい、県内の酒蔵を訪問するというイベントがあった。県庁とISICO側の準備が素晴らしく、Kura Master側からもこれほどきちんとしたオーガニゼーションは初めてだと大変感謝された。2020年1月末の時点では武漢で新型コロナウイルスが流行し始めたと報道されていただけで、欧州や日本ではまだ対岸の火事と考えていた頃だった。これらのイベントがもしも少し後にずれていたら、実現は不可能だったことだろう。非常にラッキーだったと思う。
 その後、委託契約は更新されたものの、ポストコロナ禍ではビジネスのやり方をはじめ、社会がそれ以前とは大きく変容してしまった。ミーティング、企業の面接、学校のテストはオンラインが常態化している。人やモノと接触したがらない社会すなわち非接触型社会になった。以前のように友人知人とハグしたり、握手したりすることが全くなくなってしまった。今、こちらで頬をくっつけてあいさつするのは犬と猫くらいなものである。インターネットのおかげで、日本と欧州という物理的な距離はもはやハンディキャップではなくなった。逆に現地市場に近いというアドバンテージであるといえる。しかし、オンラインではどうしても伝わらないものがある。例えば食品や飲料について言えば、味や香り、食感などである。試食や試飲ができないというのが非常にもどかしい。
 オンライン・ミーティングでは既知の人々とは比較的スムーズに話が進むが、未知の人々とは最初のハードルが高くなかなか進まない。これはラポール(信頼関係)が築かれているかどうかに関係している。ポストコロナ社会ではいかにして新たな人間関係をインターネットで構築していくかという力が試されていると思う。またマッチングアプリで恋人や結婚相手を探すことをうさんくさく思うのは恐らく昭和的な考え方なのであって、今後はサクサクっとビジネスでもプライベートでもパートナーを見つける時代になるのだろう。