活動会員のレポート

LDS社の輸出支援に関わって

  松浦 まつうら じゅん (元 三井物産)


LDS社の皆さまと(左から2人目が筆者、4人目が遠山社長)

LDS社の製品新生児見守りBaby Ai

 2019年2月からABICの紹介で、新横浜のリキッド・デザイン・システムズ(LDS社)に海外支援アドバイザーとして月数回の割合で勤務している。同社は、ABICが横浜企業経営支援財団(IDEC)から受託している支援先である。
 LDS社は従業員6人の小企業だが、IPOを目指すITベンチャー企業である。乳幼児から成人、高齢者までの睡眠中の体動から推測する呼吸/心拍体動を記録、解析するIoT体動センサー製品を自社開発し、自社、ODMおよび代理店経由販売を行っている。
 独自のバイタルセンサーを利用した新生児見守り体動センサー製品Baby Ai群は、既に国内では、保育園、病院、そして家庭向け市場で2,000セット以上の販売実績があり、2020年、医療現場向けに開発した新製品(Baby Ai Med)を発売した。さらに、バイタルセンサー技術を応用した介護用製品を開発中で、2021年3月の製品化を目指している。
 創設者で代表取締役の遠山氏は米国大学出身で、その後も同国の半導体メーカーに長年勤務された経験より、LDS社の技術を世界に広めるのが夢であった。しかし、開発技術者中心にて海外進出業務の経験が少なかったため、LDS社からIDECへの強い要望により私の採用が実現した。
 海外進出を行う前提として、まずLDS社の幹部会にて下記方針を取り決めた。

1.スタートアップ企業にて、資本基盤が強くない。そこで、海外については身の丈に合った施策を実施する。(経営に影響するような取り組みは行わない)

2.輸出、海外での製造および販売経験がないため、当面は技術移転に徹する。しかし、技術の核であるバイタルセンサーは日本から供給する。

3.対象国を1ヵ国に絞り、その国への進出にある程度めどが付いた時点で次の候補国を選定する。

4.現地展示会出展等については可能ならIDEC、JETRO等の公共機関の支援を得る。

 LDS社は以前より、新生児の数が多く、子どもの安心・安全に金を惜しまない中国市場を最重要海外市場と位置付けていた。そこで、2019年11月に習近平主席の号令下、上海で開催された第2回中国国際輸入博覧会の横浜市ブースに出展した。開催中数十社の訪問があったが、訪問者を下記の条件で選別を進めた。

1.中国の新生児医療に対し、知見を持っていること。

2.自前の工場・販売網を既に中国で持っていること。

3.技術移転、知財について国際慣習を守る信用できる相手であること。

 結果、LDS社の製品技術に興味を示した中国無錫市に拠点を置く医療機器専門企業Farstar(Wuxi)Medical Equipment Co., Ltd(豪州100%の独資企業。以下Farstar社 企業サイト http://www.farstar.com.cn)と技術移転交渉を開始することに同意した。
 その後約1年の交渉により、同社との基本技術移転契約を2020年末に締結し、中国での医療機器申請のためにサンプル2セットを有償にて輸出した。中国での許認可取得には約半年かかるが、許認可取得後、Farstar社と基幹部品以外の中国生産を念頭に、技術移転契約詳細を確定する。両社は今回の提携により、Farstar社の先進新生児心電図医療機器とLDS社の非接触型ベビーセンサーの二つの製品の相乗効果で、巨大市場である中国での展開を期待している。
 また、2021年1月11日-14日に開催されたCES2021(Japan Start-Upブース)にオンライン出展を行った。展示した独自バイタルセンサーを利用した製品は、米国や韓国などの複数企業から関心を集め商談を進めている。
 IDECとの契約は2021年3月末に終了するが、Farstar社との取り組みが順調に推移し、中国での本格的な生産が開始されることを祈念している。