活動会員のレポート

耳元でのささやきから始まった専任講師人生

  鈴木 すずき 和巳 かずみ (元 The Bank of America NT & SA)


筆者

 私はアメリカ銀行監査部がある香港に1982年に赴任し、実はご近所さんの藤原コーディネーター(CN)も丸紅香港に在籍されて、香港では家族同士で付き合いがあった。私はその後アメリカ銀行東京支店に転勤、1997年にノヴァ・スコシア銀行大阪支店支店長としての転職を契機に関西に戻った。藤原CNとは2002年ごろから頻繁に大阪市内への通勤電車でお会いした。そのたびごとに、「鈴木さん、銀行退職後に大学で教えてみませんか? できますよ」と耳元でささやき続けられた。人間って不思議なもので、自信もなく、不安ばかりだったが、そこまで言ってくださるならばできるのではとの気持ちになってしまう、耳元でささやく洗脳術だった。そしてABIC活動会員登録を2004年11月にした。
 一度、講義を見たいとABIC関西デスクにお願いし、京都外国語大学大学院での講義に出た。学生に分かりやすい資料をPDFファイルで作成し、ユーモアを交えながらの講義に感動したが、自分がそのようにできるのであろうかとの不安を感じた。正直な気持ちをぶつけたら「大丈夫、大丈夫、鈴木さんのやり方でやってください」といとも簡単なご返事だった。
 初めての講義が2005年12月に京都外国語大学大学院で「東南アジア及びアジアに於けるビジネスリスク」の2コマ連続講義でした。受講院生数は8人だったが、心臓の鼓動が聞こえるほど緊張し、ただただ作成資料を読んで講義を進めていた。連続3時間がこれほど長く、疲れるとは想像もしていなかった。「大丈夫、大丈夫、鈴木さんのやり方でやってください」との言葉を思い出し、そこに加えて「開き直り」の気持ちで、翌年の講義は無事に終えた。
 その後、2007年に同志社大学今出川キャンパスで担当する話があり、そのために、まずは亀田教授に同大学のキャンパスでいわゆる面接試験のような対面があった。なんとか無事に専任講師合格をいただいた。2008年から「外国為替リスクの管理の必要性とその手法」および「輸出入金融の実務:貿易決済と信用状の基礎知識」の2コマをオムニバス方式で担当することになった。実は、経験だけでは学生が物足りないと思い、アカデミックなアプローチも必要と考えて、「国際金融論」の書籍を再度読み直し、基本から勉強をし直した。おかげさまで、京都外国語大学は17年目、同志社大学は14年目を迎え、同志社大学は70歳定年制なので今年(2021年)が最後の講義となった。
 人間とは環境の動物だとつくづく実感した。今では2時間でも講義あるいはセミナーで話しをすることに喜びを感じている自分がいた。
 2005年から教壇に立っていると学生の反応の変化が見えた。初めのころは講義終了後に質問をする学生が必ず数人はいたのだが、この数年はほとんどの学生が終了後におとなしく退室していることに気付いた。
 昨年の2020年はコロナ禍の影響で、京都外国語大学大学院と同志社大学は対面講義の代わりに学生に資料配布、あるいは講義動画撮影とそれぞれの方法で執り行った。
 対面講義であれば学生の顔とうなずきを見ながら理解度が分かり、状況によっては講義内容を微調整しながら進めていけるのだが、残念ながらコロナ禍では対面講義ができない分、学生の理解度が感じられないのが残念だった。
 私の在日外国銀行での約27年勤務を通じて培った国際金融市場の経験、知識と知恵をこれらの講義を通じて学生たちに伝えることができたこと、さらにこのような世界があるのだと彼ら・彼女たちに知ってもらえた喜びと経験が今年(2021年)古希を迎える私にとって財産であるとつくづく感じた。


講義資料(抜粋)