活動会員のレポート

気仙沼市の技能実習生および都立定時制高校の外国人生徒への日本語学習支援を担当して

フリーランス日本語教師  齋藤 さいとう 美幸 みゆき


気仙沼市の日本語教室

パソコンに向かう高校生

 2020年度は二つのタイプの日本語学習支援に携わった。一つは、7月にABICが気仙沼市と結んだ包括協定の下に始まった「技能実習生への日本語教室」の日本語能力試験(略称JLPT)N3レベルを目指すクラス。もう一つは、東京学校支援機構からABICに依頼のあった「定時制高校に通う外国人生徒への日本語学習支援」で、こちらはJLPTのN2レベルを目指すクラスと、日本語学習経験があまりない生徒への学習支援だ。私はこの全く違うタイプの学習支援を同時進行させることとなった。

両クラスの比較
「気仙沼市の日本語教室」

受講者:インドネシア、ベトナムからの技能実習生6人(20代)
場所と形態:教室で対面
期間:2020年7月-2020年12月
頻度:2週間に1回、日曜日
時間:午後1時-3時(午前もある場合は10時-12時)
目標:日常会話、JLPTのN3合格
「都立定時制高校の日本語学習支援」
受講者:ネパール、中国からの生徒9人(10代と20代)
場所と形態:教室、ただし講師だけオンライン(Zoomで)
期間:2020年10月-12月
頻度:週に2回、火曜日と金曜日
時間:午後4時15分-5時15分、午後9時10分-55分
目標:オンライン授業に慣れること、JLPTへの合格

受講者の様子
 気仙沼市の技能実習生たちは、月曜日から土曜日の午前中まではそれぞれの事業所に勤めている。日曜日しか教室に来ることができないわけだが、皆とても明るく前向きに教室活動に取り組み、意欲的であった。その期待に応えたく、新幹線と在来線を乗り継いで、片道約5時間かけて向かった。遠方ということもあり講師2人で分担したので、受講者に会うのは1ヵ月に1回程度だったためか、教室に行くと「お久しぶりです!」という元気な声に迎えられた。そして、2時間休まず集中して教室活動に取り組んでいた。
 一方、定時制高校の生徒は、毎回同じ時間に全員がそろうということは不可能であった。アルバイトがある生徒は、放課後の午後9時過ぎのみで、放課後の参加は保護者から了解をもらえない生徒は、授業前の午後4時過ぎからのみとなった。また、時期的にちょうどネパールの大事な祭りと重なったこともあり、欠席を余儀なくされる日もあった。しかしそんな状況でも、出席率80%という生徒もいたし、出席したときは皆とても熱心に学習活動に取り組んでいた。

対面授業とオンライン授業
 気仙沼市の対面授業では、マスクをしていたので大きな声ではっきり伝え合い、笑い声の絶えない楽しい教室活動ができた。一方、都立高校の方は、オンライン授業が初めての経験ということで学校側も生徒も最初は戸惑いがかなりあったようだ。しかし、慣れてくると、パソコンに顔を近づけてにこやかに(マスクをしていたが、目は笑っていた)受講していた。また、ほとんど学習経験のない生徒へはカタカナの指導を行ったが、傍らに支援者がいないと効果的な文字の指導はできず、今回は副校長先生がその役を担ってくださり、大変にありがたかった。

JLPT受験
 どちらのコースも受験までに十数時間しかないという限られた期間で、どのような対策を取ればよいか悩んだ。ただ単に過去の問題や練習問題を解くだけでは楽しくない。せっかく日本語を話す機会なのにそれでは意味がないので、できるだけ対話のチャンスをつくった。その上で合格に向けた戦略としては、聴解問題と読解問題の攻略を伝え実際に演習問題を一緒にやり、語彙ごいと文法の知識は本人の努力に任せることにした。
 試験の結果は、どちらも1人ずつが合格、惜しくも3点足りなかった者が2人いた。他の学習者からも思ったより点が取れたとの連絡があった。不合格だった学習者らも、今年度(2021年度)も学習を続けたいとのことで、頑張ったことそのものが達成感につながっていたのだとしたら、これほどうれしいことはない。
 今後、「日本で暮らしていて、日本語の学習支援を必要としている人」がますます増えていくであろう。微力ではあるが、これからもABICの中で、このような支援に全力投球していきたい。