活動会員のレポート

創業支援に10年余り携わって

  味田村 みたむら 正行 まさゆき (元 三菱商事)


創業・ベンチャー支援センター埼玉入口

創業・ベンチャー支援センター埼玉の皆さんと
(前列左から2人目が筆者)

 2006年に三菱商事を退職した後、中小企業診断士の資格を基に経営コンサルタントとして独立創業した。事業ビジョンとして中小企業、医療・介護、社会貢献を掲げた。2008年にABICより、埼玉県創業・ベンチャー支援センターのアドバイザー公募の紹介があり、アドバイザー業務を開始した。2008年から2021年3月に退任するまで13年間(2012年からはチーフアドバイザー)勤務した。
 国は現在、「創業」に注力しているが、背景として創業率の低さがある。欧米諸国の創業率が2桁台であるのに比し、日本の創業率は5%近辺である。この要因は創業環境と就業者の意識にあり、政府は創業率10%を目指している。
 埼玉県は国より先んじて、「創業」の産業振興における重要性を認識し、渋沢栄一翁の志を基に2004年に「埼玉県創業・ベンチャー支援センター」を開設し、現在の埼玉県産業振興公社の「創業・ベンチャー支援センター埼玉」に至っている。
 埼玉県産業振興公社は、県内の中小企業振興のために埼玉県が設立した法人で、中小企業振興の中核的役割を果たしている。その事業は中小企業支援、国際化支援、産学連携支援、知的財産支援等で創業支援もその一つである。
 センターは、「創業・ベンチャー支援機関として日本No.1の機関となる」を標榜ひょうぼうし、創業者にアドバイザーによる相談支援、各種創業セミナーならびに創業情報提供を行っている。
 設立以来、ワンストップ支援を目指しており、年間約3,000件の相談、200人強の創業者支援を行っている。相談内容は資金調達、創業全般等が多く、業種的にはサービス業、卸小売りおよび飲食業が多くなっている。
 創業者は3類型に大別される。1番目は元々独立志向の職種で飲食業、美容業等である。2番目は企業での実務経験を基に独立する職種で、介護、広告業等である。3番目は社会的課題、地域ニーズおよび趣味等から起業する職種で子育て、女性支援等である。創業者の年代は、30歳から40歳台が多くの割合を占めるが、最近は50歳以上の「シニア起業」も増えている。また、相談者数および創業者数における女性が占める割合が高まりつつある。
 創業者には創業において経営管理、資金調達、開業手続き、顧客開拓等のさまざまな課題が山積している。創業者には高いハードルだが、アドバイザーは創業者に伴走し、円滑な創業ができるよう支援している。創業は人生の重要な転機になるわけで、創業者の思いを尊重し、専門家として的確な支援をすることが求められる。
 創業者はいろいろな動機から、創業の一歩を踏み出す。「自己の経験や知識が生かせる」「収入を増やしたい」「自分の夢を実現したい」等さまざまである。アドバイザーは支援する立場として幅広い経験と知識が要求される。業種・経営・資金調達等に係るノウハウが必要とされるとともに個別化、受容、自己決定等の相談援助知識も必要となる。しかし、最終的には創業者に全人格的に寄り添い、創業者の「心の支え」になることが大切である。
 創業支援を通じて、創業者が自身のビジョンの実現に向けて誠実に頑張る姿をみて感銘を受けたことが多くあった。独立開業時に目指した事業ビジョンを創業者、関係者のご支援を得て実現できた10年間であった。また、ABICとのご縁がなければこの価値ある体験はできなかった。ABICに深く感謝申し上げる。最後に創業者にささげてきた言葉「念ずれば花開く」をご披露して本稿を終わらせていただく。