自作の入門書を持つ筆者。表紙中央は「韓国語」の
ハングル文字を自らデサインしたもの。
テキストの一部
2021年8月にABICが長年協力している民間研修会社から、韓国に赴任する駐在員のために韓国語のレッスンをしてほしいとの依頼があり、ABICから講師の要請があった。受講者は、ソウル市近郊にある現地法人に、初めての日本人駐在員として赴任する予定の大手機械メーカーの社員で、出張等で数回訪韓しているので韓国に対するある程度の知識はあるが、韓国語の学習歴はないとのことであった。講座は9月、10月の毎週2回、受講者の業務終了後の各2時間合計30時間で、Zoom(Web会議システム)により、東京の自宅と千葉県にある受講者の職場をつなぎ、パソコンの画面を通して実施した。
筆者は入社翌年に「海外トレーニー」としてソウル支店に駐在した。70年代の韓国には日本語教育を受けた世代がまだ社会の中枢にいたが、世代交代すれば韓国語による意思疎通がビジネスには必須であることを実感した。当時は日本語で書かれた韓国語の入門書がほとんどなかったので、自ら韓国語を学びながら、手書きで「駐在員のための韓国語入門」を作成し、90年代に韓国で初めて市販された韓国語(兼日本語)ワープロで筆者が入力した「韓国語入門」を今回の講座でもテキストとして使用した。
日本では2000年代初頭からの韓流ブームにより、現在は数多くの韓国語入門書が発行されているが、企業の駐在員等がすぐに使用できる例文や単語等が掲載されたものはほとんどないので、受講者からは、講座のテキストは現地に赴任してすぐに役立つ内容であると評価された。しかし、この「韓国語入門」は作成から時間が経過して、韓国社会だけでなく、韓国語自体も時代とともに大きく変化しているので、補足資料を作成し、受講者のビジネスに直接関係のある場面を想定した単語や例文等を加えるなど工夫をした。
韓国語の語順や文法、熟語の意味等は日本語と類似しているので、日本人には入りやすい面もあるが、ハングル文字の習得はもちろん、韓国語の発音も日本人にとって非常に難しい部類に入る。例えば、日本語の母音は「あいうえお」の5音しかないが、韓国語には二重母音を含めて21も母音があり、これらを正確に区別する必要がある。今回はリモートによる一対一の授業のため、繰り返し発音の練習をするなど、対面授業と全く同じようにできた。
講座では、単に言葉を教えるだけでなく、日韓関係や韓国の歴史、地理、経済等の韓国全般に関する基本的な事項に言及するとともに、韓国の財閥や企業文化、日本企業との相違点、さらに現地生活上の知識や注意点など、韓国に駐在する際に必要なノウハウを伝授するように努めた。
筆者は現役時代に、アジア各国への駐在員に対する赴任前打ち合わせ業務も担当しており、韓国への赴任者には前述の入門書を利用して基礎的な韓国語も教えていたので、久しぶりに当時を思い出すこともできた。講師の機会を与えていただいたABICにも感謝したい。
<筆者韓国歴紹介>1973年入社、1974年ソウル支店トレーニー(実務研修生/業務と並行して韓国語を習得。延世大学韓国語学堂初の日本人ビジネスマン卒業生。高麗大学大学院法学科研究課程修了)、1989−1994年ソウル支店勤務、2000年代に韓国財閥系総合商社出向。退職後は韓国の大手鉄鋼メーカー日本法人の顧問として勤務。現代韓国朝鮮学会会員。